第6話:2-2;街とギルドと人かな

 ツギノ街

 コオはハジメ村の隣町に来ていた。

 この街はレンガ造りの建物が多く、人の交流が活発な商業の街だ。道には人が断えることがなく、行き交う馬車が賑やかさに拍車を掛けていた。

 そんな街にコオは圧倒されていた。ただでさえ田舎者が都会に来るだけでも圧倒されるのに、コオはひきこもりだ。顔が引きつっている。


「何あの子―?」

「田舎者―?」

「だっさー」


 コオは別の意味で顔が引きつった。声のする方向を見たら、皆が全身黒のフードをかぶった人に向かって言っていた。自分のことではないことにホッとした反面、そのものが馬鹿にされていることに腹が立った。


「うわー、すっごーい、大きな建物だー!」


 コオは大きな声でバカっぽく街のスゴさに驚くふりをした。久しぶりに大きな声を出したので、振りをしなくても馬鹿っぽさは出ていた。そんな大声を続けていたら、皆の視線がコオに向かった。


「今度は何―?」

「あの子も田舎者―?」

「だっさー」


 非難の対象は黒フードのものからコオに変わった。コオは自分の思い通りに物事が進んだことに満足する反面、なぜか涙が流れた。

 そんな涙だけでなく鼻水も流すコオは、先ほどの黒フードの者のところに向かった。すると、黒フードの者はそそくさと去っていった。


「ガーン」


〈久しぶりに口から「ガーン」を出した〉


 コオは大量の汗水も流しながら、その黒フードを追いかけた。すると、黒フードは足を速めた。


「ちょっと待って」


 コオも足を速めたが、黒フードはダッシュし始めた。速い。


「何で逃げるの?!」


〈顔が涙と鼻水と汗とヨダレでグチャグチャだった〉


 その顔は気持ち悪すぎて、誰もが逃げるようなものだった。それが理由かはわからないが逃げている黒フードは立派なドーム状の建物の中に入っていった。


「ここは?」


 コオは立ち止まった。そして、門にかかっている表札を見た。

『冒険者ギルド』

 ここは、冒険に出るものが訪れる場所。様々な職業に転職したり、様々な依頼を提示されたり、様々な冒険者が訪れたりする。

 コオが訪れようとしていた場所だ。


「ここか、冒険するために訪れないといけない場所は」


 覚悟を決めて、コオは建物の中に入っていった。いよいよ冒険の準備だ。



 中は人でごった返していた。二酸化炭素が多く、湿度で蒸れており暑かった。コオは入った瞬間に「うわっ」と思った。こういう人が多い環境は苦手なのだ。


「それにしても、どこに行けばいいんだ?」


 コオは新人冒険者になる人が行く場所を探していた。色々と講習を受けたり、冒険者として登録する必要がある。でも、初めて訪れるコオにはどこに行けばいいのかわからなかった。


「きみ、初めて?」


 コオは話しかけたのは、メガネをかけた警備員だった。優しそうだが、弱そうだった。だから冒険には出ないのだろうか?


「はい、そうです」

「こちらになります」


 連れて行ってもらったところには、金髪のきれいなグラマーがカウンター越しに立っていた。受付場のお姉さんだ。


「いらっしゃいませ。どういったご要件でしょうか?」


 ニコッと笑った時に揺れた胸にコオは思わず目がいった。こちらも戦闘向きではない弱そうな人だった。


「あ、あの、は、初めてでして」

「では、初めての方の説明をいたします……」


 コオは久しぶりの外だからか、美人が相手だからか、すごく緊張していた。自分では何を話しているのかわからないし、相手が何を話しているのかもわからなかった。ただ事務的に物事が進む。


「……以上です。何かご質問はございますか?」

「……ないです」

「ありがとうございました」


 コオは何も分からず説明を終えた。何も分からず椅子に座った。何も分からず時間が過ぎた。


「あー、熱い……」


 コオは久しぶりの人に当たって、グダっていた。

 意識が遠のく。

 ――


「――――か」


 コオは意識が朦朧としていた。


「――じゃないか」


 コオは声に意識を戻された。


「コオじゃないか」


 目を見開くと、赤毛の男の子が立っていた。コオにとってそれは懐かしさを感じる風を吹かせるものだった。そう、そのものは……


「誰ですか?」

「覚えていないの?!」


〈コオの記憶にないものだった〉


 その赤毛の男の子はマジでかと言いたげな顔をしていたが、コオはマジで誰だお前はという顔をしていた。かわいそうである。


「知り合いですか?」

「知り合いもなにも、僕だよ僕。6年前に夏祭りで助けてもらった……」


 すると、コオの脳に電撃が走った。そうだあの人だ、と言いたげだった。


「お前、ジアか」

「ジウだよ!また名前違う」


 2人は懐かしいやり取りをした。すると、コオは自然と笑った。久しぶりに腹の底から笑った。目からは涙が出た。しかし、この涙は先ほどの外でのやり取りのものとは違う。


「それにしても久しぶりだな」

「そりゃあ、お前が学校に来なくなったからだろ」

「ははは」


 元気がなくなったコオを見て、ジウは急いで話題を変えた。思い出したくないことは誰にでもある。


「ほら、あそこを見てみろよ」

「え? あれは?」


 そこにはウロじいさんがいた。バイト先だったところの人だ。


「何でウロじいさんが?」


 コオは困惑していた。道具屋がどうして冒険者の集まりに?


「じいさんは道具屋をする傍ら、魔法使いとして冒険しているらしいぜ」

「どうして? 昔はしていなかったと思うけど」

「僕もそう思って聞いてみたら、ボケ予防として冒険することにしたんだって。それ以上のことは言わないが、おそらく……」

「おそらく?」


 沈黙とともに涼しい風が吹いた。ジウは言葉を濁した。


「……いや、なんでもない。ただのボケ予防だろう」

「なんだよ、それ」


 何かを隠してるとコオはわかったが、詮索はしないことにした。ただ仲良く笑うのみだった。そう笑っていると、やじうまの怒号がコオたちの耳を貫いた。


「ここって、こんなにうるさいのか?」

「まあね。でも、さっきのは少し大きかったよ」


 両手で耳を塞ぎながら二人はやじうまの方向に向かった。群衆を分けいった。


「いったい何なんだ?」

「あっ。またあいつらか」


 そのジウの言葉の先には、いかにも悪ガキみたいな顔の3人組がいた。それは、コオのクラスのいじめっ子達だった。


「あ! あいつらは!」


 コオは驚いた。その声は宇宙の底から呼び寄せたのかと思うくらいコオにとって大きな声だった。


「「「あんっ!」」」


 3人に睨まれた。コオは急いで手で口を塞いだ。それがかえってわかりやすかった。


「「「あっ、お前は!」」」


 指さされたコオは逃げようとしたが、やじうまの何者かに捕まって、前に放り込まれた。そう、いじめっ子3人との久しぶりのご対面だ。


「よお、ひさしぶりだな」

「……」

「お前が来なくなってから、学校が退屈だったぜ」

「……」

「おい、何か言えよ」

「……あんたたち、顔が一緒だね」

「「「やかましいわ!」」」


〈コオの3人に対する態度は変わっていなかった〉


 三人はブチギレて、コオはまずいことを言ったことに気づいた。そのへんはコオも成長したものだ。

 野次馬たちは盛り上がった。

 さて、どうなることか。

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