第4話:1-3;コオとウロかな
「あー、今日もお手伝いかー」
「ほっほっほ。悪いのー」
コオは老人と一緒に道具屋にいた。
嫌そうなコオの横にいるその老人は高名な魔法使いのような立派な白ひげを携えていた。しかし、ただの村人だ。コオの親戚にあたるこの者が経営している道具屋にコオはお手伝いに来ていた。
「いつもすまんなあ。ココ」
「誰だよ! 俺はコオ。ボケんなよ」
「ほっほっほ。すまんなぁ」
「ウロじいさん、そう思うのなら、バイト代上げてくれよ」
「ほっほっほ、次は店番を頼むぞ」
「さっきからずっと店番だよ。本当にボケているだろ」
〈ウロは聞き流した〉
そう言うとウロは店の奥に入っていった。コオは齢6歳にして店番を担当することになった。といっても、客がいない寂れたボロ道具屋で、客が来たらじいさんを呼ぶだけの単純なお仕事だ。カウンターに座った。
コオは暇すぎて鼻くそをほじっていた。すると、思ったより鼻くその出が良すぎた。1ホジで2クソ出てくる。もう1ホジすると3クソ出てくる。これは調子がいいぞ、と思ったのか、かなり深追いをしていた。何ホジもしていた。鼻くそをほじることに夢中になっていた。
「――何しているの?」
その様子をナオは見てはいけないものを見てしまったような顔をして見ていた。
「……いつからそこに?」
「……店番が変わったところから」
〈世界一無駄な緊迫感だ〉
2人ともなにを言えばいいのかわからなくて変な空気が流れた。
……
そんな変な空気の時は。
「やあ、元気そうだな!」
ジウはあえて空元気にナオの後ろから出てきた。
「うるさいな!普通に入ってこれないのか?」
「ごめんごめん。それより、夏まつりの時はごめんな?」
「大丈夫大丈夫」
「それは良かった」
ジウはホッとした。
「この傷薬があればすぐ治るから、いかがですか? ゲヘヘヘ」
〈コオは悪い商売人みたいになった〉
コオの悪そうな顔を見て、どこかホッとしたナオとジウは互いに顔を見合わせた。それを不思議そうな顔でコオが見つめる。
「お前ら、どうしたんだ? なんか嬉しそうだけど」
「夏祭りからズーッと会ったいなかったから心配したの」
ナオの言葉を聞いて、もう少しで夏休みが終わることをコオは思い出した。そして、夏祭り以外は特に思い出がなく、その夏祭りも苦い思い出であることを思い出した。コオは負のオーラを纏い頭を垂れてブツブツ独り言。
「――コオくん。おーい。コオくーん」
「――ダメだ。意識が飛んでる」
ナオがカウンター越しに顔の前で手を振っているのに気づかないコオを見て、ジウは冷静に言う。そして、ジウが冷静に店の中を見渡したら、ホコリのかぶった棚に鮮度が悪そうな商品にパッとしない彩が気になった。冷静に考えて、店の状況は悪いと思ったのだろう。
「この店、ボロいね」
「ボロくて悪かったね」
ジウが振り返ると、ウロがいた。
少し間を置き。
「――いやー、立派な店ですねー」
「今更遅いわ」
ジウは嘘が下手だった。
「ご、ごめんなさい」
「いや、いいんじゃ。ボロいのはわかっているからな。ほっほっほ」
ウロはジウの頭を撫でた。
気にしている様子はない。
「で、でも」
「いいんじゃ。それよりも、コオ、お客さんが来たら呼ぶように言ったじゃろ!」
ウロはコオを叱った。
そこは気にしていた。
「そ、そんな怒ることじゃないだろ」
「やかましい、言うこと聞かんかい!」
「そっちこそ、バイト代はいつ上げるんだよ!」
「はー! なんのことじゃ!」
「とぼけやがったな、くそじじい!」
「くそじじい? 聞こえないふりして店番させているうちにトイレに行って何が悪いんじゃ!」
「そういう意味じゃねぇよ! てゆうか、やっぱりとぼけてやがったな! それに、こいつらは俺に会いに来ただけで客じゃないよ。なあ?」
「「は、はい」」
〈ナオとジウの2人は巻き込まれた〉
ナオとジウはビビっていた。一方のコオは全くビビっていなかった。コオにとってはいつもと同じやり取りだった。しかし、ナオとジウにとっては始めたのことだった。この違いはただ単にそれだけの違いから生じるものだった。
「おい、くそじじい、お前のせいで2人がビビっているじゃないか!」
「誰がくそじじいじゃ! 匂いか? 匂いがついているのか?」
「だからそういう意味じゃねえよ。いつまでとぼけているんだ!」
「誰がドブ掃除しているじゃ! くそがついているのか?このじじいにくそがついているのか?」
「うるせぇ! どういう聞き間違いだ! くそくそくそと何回言うつもり……」
そこに客が訪れた。
「お店やってますか?」
「「いらっしゃいませー」」
〈切り替えが早すぎた〉
先ほどの熱い怒り顔の言い合いとは打って変わって、急に冷静で笑顔の営業トークになった。ナオとジウはこれにもある意味ビビった。これが商才魂か。
「どういったご要件でしょうか?」
「薬草はない?」
「かしこまりました。(おい、コオ)」
「(了解)」
ウロとコオはアイコンタクトした。そのままウロは薬草を探しに奥に入った。コオはその間のつなぎとして、接客をしていた。その様子をナオが目を輝かせながら見ていた。その様子をジウは微笑みながら見ていた。
「ご注文の品です」
ウロは草を持ってきた。少し黒かった。不気味に黒かった。
「店長、これ、本当に……」
「なんじゃ? ありがとうな。友達と話しておいで」
「いや、これ、毒じゃあ……」
「はっ? お客様の前で何を言っているのじゃ?」
「でも、これは毒ですよ。確かめてください」
「営業妨害だ! 向こうに行け!」
ウロはコオをつまみだそうとした。
コオは抵抗する。
「おい、何するんだ、くそじじい!」
「うるさい! 黙っとれ」
「こうなったら」
コオは商品の草を無理くり取って、口の中に押し込んだ。
ゴクリ。
「おま、なにしているんだ!」
「ウグググ」
「吐け、吐け。勝手に店の商品を食べて。勝手にお客様の商品を、くそ!」
「がはっ」
ウロはコオを床に投げ捨てた。そして、勢いよく3回引っ叩き、後頭部を持って客に土下座させた。
「このものが失礼いたしました」
「そ、そこまでしなくても」
客はたじろぎながらも両手を前に出してなだめていた。
けったいな店に来たものだとおののいているのだろう。
「いえ、これくらいやらないと」
「いえ、でも……」
「いいんです。申し訳ありません。ほら、お前からももう1度謝れ」
「……」
「何をしている! 謝れ!」
コオは返事がなかった。ウロは何回も話しかけたが、返事がなかった。無視をすることに苛立ったウロは小突いた。すると、人形のようにコロリとひっくり返ったコオは口から泡を出していた。
「なっ?!」
「どうしたんですか、これは?!」
客とともに驚くウロは、コオの口元に先ほどの草がひっついているのを確認した。それを震える手で取り、味見した。
「こ、これは!」
「「どうしたんですか?」」
駆け寄ってきた2人の子供に向かって、老人は言った。
「これは、毒薬じゃ」
「「「え?」」」
「わしは、本当に毒薬を出していたようじゃ……」
ウロは震える体から声を震わせていた。
自分のしでかしたことを理解したのだ。そして、コオのしたことも理解した。
「なんでコオにこんなことを」
「わしは、わしは薬草のつもりで」
「どうやらボケてしまったようね」
「君たち、とりあえず応急処置だ。店主さん、毒薬はどこですか?」
応急処置をした。
〈昔の話を見すぎた。このままではらちがあかない。もっと早送りしよう〉
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