第3話:1-2;コオとジウかな
「おーい、祭りだぜー!」
「ちょっと待ってよー」
そう言い合った2人は夏祭り会場に着いた。
片方はナオであり、もう片方の金髪一重瞼の男の子はコオだった。コオの普通の格好のようだ。数日前の魔王のコスプレの印象が強いコオも普通の格好をすると普通の男の子だった。青い浴衣を着たコオと赤い浴衣を着たナオは慣れない下駄で親指と人差し指との間を赤くしていた。
「早くしないと終わっちまうぜー」
「そんな早く終わらないよー」
コオは急いでいた。それに合わせるようにナオも急いだ。運動のせいか、頬が赤く染まっていた。しかし、慣れない急ぎ足に慣れない下駄が合わさって、ナオはこけてしまった。
「ブァハ!」
「おい、ナオ」
コオは急いでナオに近づいた。その顔は神妙だった。ナオは赤くスった顔面を上げて涙目でコオを見た。
「コオくん……」
「ナオ……」
コオは顔を近づけて続けた。
ナオは、コオが助けてくれるのだと期待した。
「先に行っておくね」
〈コオは姿をくらました〉
コオが去っていく中、ナオは一人取り残された。
「ガーン!」
〈本当に「ガーン」と言う人を初めて見た〉
周りを多くの人が行き来する中、ナオは1人倒れたまま動かなかった。魂がに抜けた抜け殻のように、身動き1つなかった。セミの亡骸のようだった。真っ暗闇に1人だけいる気分。
……
「もしもし」
そこに話しかける黄色い浴衣の赤毛の男の子。その声に反応して見上げる女の子。
「……はい?」
「もしもし、大丈夫ですか?」
「……はい」
ナオはあまり大丈夫そうにない気の抜けた声で返事していた。それはケガのこともあるが、置いてきぼりにされたこともあった。
「あの、本当に大ジョ……ナオさん?」
「……はい……え?!」
互いに顔を見合わせた。状況は理解していないけど相手の顔を理解している男の子と、状況を理解していないけど相手の顔を理解していない女の子との出会い。
「僕だよ僕。同じクラスのジウ」
少年は明らかに知っている人の反応だった。
それを見て、ナオは目をパチクリさせていた。
「アーヒサシブリネ」
「覚えてないんだね」
……
何とも言えない空気になった。それをごまかすためにジウは話を変えた。
「ところで、ここでなにしているの?」
「実は……」
人が増えてきた。それくらい時間が経ったのだ
「なんだって!」
祭りに来ていた人たちが2人の子供の方を振り向いた。
「コオに置いてきぼりにされた?!」
ナオは泣きそうな顔で頷いた。
「こんなところに女の子を1人置いて、どこに行ったんだ。そんな奴ほっといて、僕と一緒に行こう」
ジウはナオの手を取ったが、ナオは動かなかった。
「どうしたんだ?」
「ここから離れたくない」
「どうして?」
「……」
「まさか、置いていったコオが帰ってくるのを信じて待っ……」
「知らない人について行ったらダメって言われているの」
〈ジウは恥ずかしかった〉
先程までジウはナオの話を聞いているだけで、自分の話をしなかった。だから、自分のことを知らないままのナオは当然のことである。そのことを考えずに一人で舞い上がっていたジウは我に返って冷静になり、自分の言動に恥ずかしさを顔に出した。
……
「おい、どうしたんだ?」
コオが帰ってきた。のんきな様子だった。
「さっき、大きな声が聞こえエエエエエ?!」
ナオとジウとが手を握り合っている場にコオは遭遇した。
それは恋人つなぎだった。
「お、お、お前たち。い、い、いつの間に。そ、そ、そんな関係に?」
〈コオは混乱した〉
慌てふためいて指差すコオにされた指摘で、ナオとジウは急いで互いの手を離し、互いに反対方向を向いた。互いに顔を赤くしていた。
「コ、コ、コオくん。こ、こ、これは。そ、そ、そういうことじゃないの」
「そ、そ、そうだ。ぼ、ぼ、僕とナオさんは。そ、そ、そういう関係じゃないんだ」
「お、お、お前ら。な、な、なんでそんなに。こ、こ、混乱しているだ?」
〈3人とも混乱していた〉
3人ともわちゃわちゃしている影響か、周りの人達は距離を取って歩いていた。そんな空気を変えようとしたのか、ジウはコオに言いよった。
「コオ、お前、こんなところにナオさん一人にしていいと思っているのか?」
「お、お前には関係ないだろ」
「関係あるよ。同じクラスの2人のことだよ」
「なんだと?」
「なんだ?」
「お前、俺たちと同じクラスなの?」
〈ジウはコオにも覚えられていなかった〉
ジウは膝をついて落ち込んだ。どんなに存在感がないのだと嘆いた。
それを無視してコオはナオのところに近づいた。
「あいつは一体何なんだ?」
「さあ?」
ナオは少し膨れった面で言った。
「? 何を怒っているんだ?」
「別に? 怒ってないわよ? それで、どうして戻ってきたの?」
「あぁ、これ」
そう言いながら、コオはポケットから絆創膏を取り出した。
「え?」
「いや、お前、さっき転んで怪我しただろ?しかも、下駄のせいで足の指と指との間も痛めているし。だから、絆創膏を買ってきた」
そう言いながらナオの顔に絆創膏を貼っていった。
ペタペタペタ
その間、ナオは嬉しさで顔を赤く染めながら、ウルウルした目でコオを見ていた。
……
「さっ、これで大丈夫だろ」
ナオの顔が絆創膏で埋まった。
「うー、うー、うー!」
「どうした?」
「うーうー」
「何かあるのなら遠慮なく言ってくれよ」
「うーー!」
「なんだよ、はっきり言えよ」
「貼りすぎよ!」
〈ナオははっきり言った〉
ナオの手には剥がした絆創膏が複数ついていた。唇には絆創膏の跡がつきまくっていた。剥がすのが痛そうだ。
「は、貼りすぎ?」
「そうよ。こんなところにも貼らなくていいのよ」
ナオは耳に貼りめぐされた絆創膏を取りながら言った。怪我していないところなのに。
「耳の絆創膏を取っても大丈夫か?」
「私は耳なし芳一か!」
〈どこで得た知識だろうか? (この世界では、耳なし芳一は伝聞されていないはずだが)〉
ナオはコオの静止を無視して大部分の絆創膏を剥がして、その可愛い顔を顕にした。そして、コオに対して一言。
「ありがとう」
「あ、ああ。どういたしまして」
ナオの顔と感謝の言葉を正面から知ったコオはドギマギした。ナオは先程から心臓をドキドキさせていた。
互いに相手をすごく意識してしまった。
二人だけの空間。
……
「僕を忘れるなー!」
〈ジウの存在は完璧に忘れられていた〉
ジウの声を聞いて2人はアタフタした。
名前を忘れて、今いることも忘れていた。
「僕は落ち込んでいたんだよ? 普通なら慰めるだろ? それなのになんで無視するの? なんでいないことにして話を進めているの? というか、なんで2人とも僕のことを覚えていないの? 同じクラスだよ? なんで? 僕の存在感はそんなにないの?ねえ? なんで? 僕はどうしたら覚えてもらえるの? ねえったら? ……」
堰を切ったように喋りつづけるジウを、コオとナオは姿勢を正して聞くしかなかった。申し訳なさそうな気持ちが2人からにじみ出ていた。
「……とまあ、色々と言ったが、安心したよ。でも、何も言わずに置き去りにするのは良くないよ。今度からは絆創膏を取りに行くときは、きちんと一言言うこと。わかった?」
「わかりました。ジオ先生」
「私も。グルくん」
〈名前は分かっていなかった〉
ジウは名前を間違えられたことに引っかかったような顔をしたが、これ以上2人と一緒にいたら邪魔になると思って、さっさと去ろうとした。
と、その時。
提灯で彩られた壁がジウに倒れてきた。
音と共に噴煙が待った。
壁の下には男の子が挟まっていた。大人たちが救出した。男の子は血だらけになりながら壁の横で救急手当てを受けていた。
コオは血だらけで、その様子を無傷に倒れているジウが呆然と見ていた。
「きゃー!」
「ぼ、ぼ、僕は悪くないんだ」
ナオが力強く叫ぶ。ジウが力なく呟く。
「コオくん。どうして?」
「壁が僕に倒れてきたんだ。僕は不思議な光景に動けなかったんだ。そうしたら、コオが僕を突き飛ばして、そのまま壁の下敷きになったんだ」
ナオとジウの2人は会話しているわけではないのに、言葉が噛み合った。
コオに投げかけた質問を奇跡的にジウが応える形になった。
「コオくん!」
「コオ!」
2人の悲痛な叫びの先では、仰向けに横たわるコオの右手が力強く上がっていた。その手には絆創膏が持たれていた。
「2人とも、心配するな。俺は大丈夫だ。こんなの、絆創膏をつけていたら治るさ」
その声は力を失い、手も力強く下に落ちた。
「コオくんー!!」
「コオー!!」
二人は駆け寄った。その目線の先にはコオの安らかな顔があった。そう、まるで安らかな眠りに就いたような顔だった。
「――ぐー」
「「えっ?」」
〈コオは寝ていた〉
「「……」」
2人は呆れてコオを置き去りにして祭りに行った。
〈また早送り〉
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