第50話 魚肉だって肉‼
「今年も終わるな…」
コトネが呟く。
『カフェ兎彩』休業補償と腐れ縁で成り立つ時代が産んだカフェ、腐れ縁の貸し切りとなっている年末、ココアにブランデーを垂らしてナミの作る年越し蕎麦を待っているのである。
「ナツコは?」
コトネがナミに尋ねた。
「ん~、後で来るとか言ってたけど」
「早く来ねぇとカウントダウン始まっちまうぜ」
只今12/31 PM4:30である。
「まだ早いわよ…カウントダウンを気にするには」
「バッカ、ナミ、12月なんてクリスマス終わったら、後は年末、年始と駆け足で過ぎていくんだぜ」
「そうかもね、今年も早かったわ…」
「だな、異常だよな1年の速さ、もう付いていける気がしねぇわ、アタシ、来年は誕生日スルーすることにしたわ」
「スルーできたらいいのにね…」
「あぁ…してぇもんだな」
カランッ♪
「ナ~ミ~餅持ってきたわよ~」
「ナツコ…オマエ、ココに余りもの処分に来てんじゃねぇのか?」
「そんなことないわよ~、餅って雰囲気で買うけど余るじゃない?」
「余りものじゃねぇか…」
「余りものでもいいの、私、餅買ったことないし」
「それもまた…でも…アタシもねぇわ多分」
「正月は餅なのよ~」
ご~んっ…
「アレさ、除夜の鐘って苦情にならないのかね?」
「コトネは心が狭いから~、そう思うのよ~騒音くらいで~」
「ナツコ、オマエ、今、騒音って言ったからな」
「うるさいだけだよね、なんで、このクソ寒い中、鐘なんか鳴らしたがるんだろう?」
「そうだな、しかも深夜にな、年末年始も仕事ってヤツもいるのにな」
ボチャンッ…
「あっ‼ ナミ、オマエなんで蕎麦に餅入れんだよ‼うどんじゃねぇんだよ‼」
「ん? 焼いたし、入れるよ」
「そうよ~、うどんも蕎麦も同じようなもんじゃない~」
「和食だから問題ない」
「そうよ~、ミートソースに餅を入れたら怒りなさいよ~」
「ナツコ、その理屈だとラーメンが境界線になるぞ‼」
「…蕎麦・うどんは和食、ラーメンが中華…パスタは洋食…アジア‼」
「まっ…どうでもいいけどな」
「どうでもいんだ…」
「思うんだけどよ、餅って毒キノコより命を奪うよな、毒って美味いんだと思うんだよフグとかキノコとか美味いから食うわけじゃん」
「なんで? 食べられたくないから毒があるんじゃないの?」
「矛盾してるわよね~」
「餅には毒はねぇけど…危険度は、それ以上だよな」
「今年は…何人が餅で命を落とすんだろう…」
除夜の鐘を聞きながら、正月早々、不吉なことを真剣に考える。
それが三十路の女というものなのであろうか?
「なんか…来年も、ココでこうしているような気がする…」
「あぁ…この店が存在していればな」
「ナミ~、補助金は無限じゃないのよ~」
20年経っても、こうしているのかもしれない…『カフェ兎彩』が存在していれば。
Fin
チェリーパイって言っときゃ、アメリカンジョークは成立する。 桜雪 @sakurayuki
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