第48話 食べてないのに太るというなら記憶障害

 クリスマスイブにキムチを配った女『ナミ』

 どこの家庭も苦笑いで出迎えてくれた。

 韓国だってクリスマスにキムチは配らないと思う。

 まさかの本場越えである。

「最近、お通じがいい気がする」

 ナミがニコニコしている。

「オマエ、そりゃ、キムチだよ発酵食品の偉大さよな」

「痩せた気がするの」

「胸だけな」

「胸は元々、成長期を知らないまま…今に至る」

「一生、訪れないのわよ~ナミ」

「そうだな…平均寿命から考えて1/3は経過したしな」

「そう考えると嫌な気持ちになる」

「後ろから考えるの~やめな~い…暗い気持ちになる~」

「だな…過ぎた時と同じくらい未来の話もしたくねぇな」

「ロクな過去も無い…明るい未来も無い…今しか見れない」

 涙ぐむナミ。

「今だって大したことねぇじゃねぇか」

 コトネの一言で、いよいよ涙が頬を伝うナミ。

 零れないようにグッと堪えて天井を向く。

「クリスマスに近所にキムチをバラ撒く女だよコイツ」

「そうよね~、なんか迷惑系テロよね~」

「そうだよな、アタシなんかキムチ年末までのキムチ消費量計算で大変だからな」

「大変なのは~計算より、実際の消費量なのよ~、毎日となるとね~、徐々にテンションがね~」

「最後は鍋しかねぇという覚悟で挑んでいるぜ」

「そうね~、最後はココに持ち寄ってキムチ鍋よね~」

 ジロッとナツコとコトネがナミを睨む。

「思いのほか…」

 涙声で睨まれたナミが何か言いかけた。

「なんて?」

「…思いのほか…賞味期限が…早かった…」

「発酵食品の盲点よね~」

「発酵と腐敗は違うってことだよな」

「……もう…今日で終わりにする…」

「なにを?」

「キムチ…」

 カウンターに土鍋を3個コトッと並べるナミ。

「土鍋?」

「3人で、キムチうどん…もう、うどん煮ている」

「コイツ…スタンバイ済みかよ…信じられねぇ…」

「ナミ~、カフェでうどんは食べたくないわ~」

「キムチフェアで、うどんも大量に仕入れた…もう…今夜しかない」

「今夜しかって…オマエ、アタシの家のキムチ持ってこなきゃダメか?」

「それは、各自のノルマだから…うどんの分はココの在庫だから」

「私の家の~キムチも計算外ってことなの~?」

「逆に、何で計算に入れるか解らない…売った瞬間に在庫から外れてる」

「コイツだけは…アタシにしてみれば、今日、ココで、食うキムチが計算に入れてねぇわ‼」

「私の計算には、2人が食べるであろうキムチとうどんは計算に入ってる…大丈夫…キムチは太らない」

「うどんは~? 太ると思うのよ~」

「……相殺できると信じてほしい」


 夜遅くまで『キムチうどん』を黙々と食べる女3人。


 もう交わす言葉もないままに、ひたすら、椀子そばのように、うどんが追加される光景は悪夢であったと後にコトネは語った。



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