第47話 烏龍茶という万能飲料

「だから韓国に肥満は少ないのよ」

 ナミが樽に入ったキムチを前に力説している。

「仮にもカフェという空間でキムチ推しされたかねぇよ‼」

 前夜の『皮ごとバナナのフルーツサンド・ヨーグルトクリーム』が嘘のようなキムチフェア開催初日の『カフェ兎彩』唐辛子がシパシパするのか『ザルソバ』はフガーとした顔で目を細めてカウンターの隅で座っている。

「キムチを樽で買う人、初めて見たわ~ナミ~男気よね~」

「とても美味しかった、このキムチならイケると思った」

「で~衝動買いしたのよね~ナミ」

「樽でか‼」

「そう樽で、この樽がポイントだと思ったから」

 ポンッと隣りにズドンッと置かれたキムチがミッチリ詰まった樽を叩くナミ。

「大変そうだったもんね~配達の人~」

 ナツコがニコニコと樽を見ている。

「アレ…腰イッたよな…」

「そうね~配達の仕事大丈夫かしら~」

「ナミ、配達の人を退職に追い込むなよ…可哀想に」

「そうよ~、コロナ不況なのよ~今は~」

「私? 関係なくない?」

 そうなのだ、あのクソ重たく運びにくそうな樽を一人で運ばせた会社の采配ミスである。

「不況って…結局、マンパワーで乗り切ろうとするのよね~」

「そうだな、悪循環ってヤツだぜ」

「不況なのに人手不足って、こういうことなのかもしれないわ~」

「じゃあ私のせいじゃないじゃん」

「年末の忙しい時に、こんな大樽を衝動買いするなってことだよナミ」

「そうよ~ナミ、発酵と腐敗は違うのよ~、腐るわよ~」

「売るの‼ 腐る前に売れるの‼」

「オマエ、売れるほど客足ねぇだろ‼ その樽の大きさ‼」

「そうよ~、リアル黒ひげ出来そうな大きさよ~ナミ」

「そうだぞナミ、ザルソバを見てみろよ、目がシパシパしてるぞアレ‼」

 コトネが看板猫『ザルソバ』をビシッと指さす。

 確かにシパシパ、フガフガしておられる『ザルソバ』姉さん。

「この量が、1週間もすると~腐敗臭に変わるのよ~公害よ~」

「どうやって3~4日で売るつもりなんだ?ナミ」

「それは…考えてない…売れるだろうという思惑のみ」

「でた‼ だろう運転だよ‼」

「ナ~ミ~、経営も自動車も、かもしれないが大事なのよ~」

「売れるかもしれない‼」

 ナミがグッと拳を握る。

 そのナミの姿を見てコトネは思った…2Kgは引き取らなければならないのだろうと…。


 結果、ナツコが5Kg、コトネは3Kg買った。

 2日後…

「いえ、いいんです…近所にお配りしているんです…良かったらカフェにも来てください」


 近隣にキムチを配るナミ。

 挨拶を兼ねて営業活動に勤しむカフェ経営者ナミ、しかしキムチを配るカフェに行きたいと思う人がいるのだろうか…。

 考えている場合じゃねぇのだ、腐る前に、ばら撒かねばならない事態になったのである。

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