ラストスパートという名の余力

第46話 こっちがワインを解るように語れるソムリエは優秀

「そろそろ…いけるか?」

 毎日、箱の中に納められた『皮ごと食べられるバナナ』の観察を続けているナミ。

 もはや夏休みの課題のようである。

 咲いても咲かなくてもどうでもいいアサガオの観察日記をつけるように毎日3回写真に収め関係者に送信しているのだ。

(週末の夜に作ろう、フルーツサンド)

 意気込むほどのものでもないので、余計に楽しみなのである。

 パンと生クリームとフルーツがあればいいのだから。

 皮を楽しむというナミの期待値は日々アゲアゲだったのだ。


 ………

「作ってみました」

 白いお皿に白強めのフルーツサンドが乗せられテーブルに置かれる。

「思った以上の量ができたなオイ」

 サンドイッチサイズにバナナの輪切りを並べると意外に並ばないものなのだ。

「ナ~ミ~…バナナしかないじゃな~い」

「当り前、バナナのフルーツサンドを作ったんだからバナナしかない」

「このうえフルーツ盛り合わせレベルで出てきたんじゃ苦痛だろ」

 チラッとキッチンの方を見ると大量のパンの耳が袋に入っている。

(あのパンの耳だけで1週間生きれそうだな…)

 コトネは身震いした。

 とりあえず看板猫『ザルソバ』がパンの耳を少量ながら食している。

 缶詰に混ぜてナミが与えているのだ。

「うん…なんか…うん…」

 とりあえずカオウが食べてみた。

 微妙な顔をしている。

「どう?」

 ナミが興味深そうにカオウに聞く。

「いやナミ、オマエ試食とかしてねぇの?」

「してない、だってパンにヨーグルトクリーム塗ってバナナを切って乗せて挟んだだけだから」

「言ってみればそうなんだけど~」

 ナツコも食べてみる。

「どう?おいしい?」

「うん…なんか…う~ん…」

「おいおい、反応が微妙だなオイ」

 コトネは一気に一切れ食べ…

「うん…なんか…アレ…皮が邪魔」

 率直な感想を述べた。

「えっ? 皮が主役なのに?」

「いやナミ、皮が主役ってことは在り得ねぇだろ」

「皮ごと食べれるがウリなのに皮が邪魔とか?」

「うん、皮を残せば美味いぜ、さすがナミばぁ」

「いやいや、皮を食べてよ」

「ナ~ミ~、ホント皮を剥けば美味しいわよ~」

「うん…ナミ、皮が漬物の食感なんだよ、ザクッとシャリッの中間というか、それにヌタッを混ぜたような感じ」

「ヌタッ?」

「あぁ…ヌタッだ」

「バカな…」

 ナミも一切れ食べてみる。

「なっ?」

 その表情を読み取ったコトネがナミに同意を求める。

「なんだろう…新食感」

「そうだな…味わいたくねぇ新食感だな」


 皆で皮を残して美味しく頂きました。

「余ったのは旦那に持っていくわ~ナミ~ありがとね~」

 笑顔で帰るナツコとカオウ親子を見送るナミの表情、コトネ曰くヌタッとした顔をしていたそうである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る