第39話 フライドポテトを野菜と言える勇気

「焼きそばって…どこ料理?」

 ナミがペ〇ングを一口食べて呟いた。

 カウンターの上で看板猫『ザルソバ』が大きく欠伸してグーンと伸びてコテンッと横になる。

『彼女』にとって同居人『ナミ』という人間は実に興味深く、そしてストレスを感じない存在である。

 クルクルと変わる表情をボケーッと眺めているだけで飽きないのだ。

 そんなわけで、このカフェ『兎彩』に住み着いている。

 観察対象『ナミ』今日はカップ焼きそばを前に悩みだした。

(実に不思議な生き物だ…)


「ナミ…アタシはパフェを頼んだつもりなんだけど…なぜカップ焼きそばが置かれたのかしら? しかも湯切りはセルフって…」

「コトネ…私、考えたの、焼きそばってどこの料理なんだろうって」

「調べれば?」

「ううん、そうじゃないの考えたいの私」

 ナミという女性は、ほとほと面倒くさい女なのである。

 カランッ♪

「買ってきたわよ~ナミ~」

 ナツコがスーパーをぶら下げて入ってきた。

 ドサッと置かれた袋の中身は、そう『焼きそば』一式である。

「コトネ、いい」

 ナミは真剣な顔で焼きそば用の麺をコトネの前に置いた。

「麺は中華よ」

「あぁ…そうかもな」

「そして、ソースはイギリスなの」

「そうなの?」

「そうなのよ、調べたの私」

(結局、調べたんじゃん…)

「ということは…具材は置いておいてソース焼きそばに和食の要素入ってないの」

 大発見みたいな顔でコトネを見てくるナミ。

「ナミ、凄~い、盲点よね~」

(なんだろう…直球のバカと変化球のバカなのかしら…ナミとナツコって)

「で?」

 コトネが湯を切りながらナミに聞いた。

「はい?」

「いや…焼きそばの発祥の地がどうしたのよ?」

「凄くない? 考えてみて‼」

 ナミの持論はこうだ。

 麺は中国、ソースはイギリス、キャベツは日本じゃないっぽい、肉食文化は大陸っぽい、つまり…日本感ゼロのくせに日本感が凄いということを言いたいようだ。

「…不思議だ…」

 カップ焼きそばを食べ始めたコトネが呟く。

「なぜか、焼きそば食うと、チャーハンが欲しくなる…」

「えっ? チャーハン?」

 ナミが聞き返す。

 人が焼きそばの話をしているのに、まさかのチャーハンで返されるとは…。

「チャーハン? えっ? それは買ってきてないわよ~」

「金払うなら作るけど」

 ナミが商売っ気オーラを出す。

「なんでだろう…焼きそば食うと半チャーハン食いたくなる」

「半?」

「そう…半…3口くらいで食えそうな感じのコトッと置かれるチャーハン」

「作ろうか? 450円くらいでいいけど」

「もういいんだ…食い終わったから」


「で…なんの話をしていたんだっけ?」

 コトネがナミの顔を見ている。

 唇が油でテカッている。

「コトネ…青のり…入れ忘れてる」

 スッと袋を差し出すナミ。


 パフェを食いに来たことを忘れているコトネであった。

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