意識高い系とかいう勘違い人種

第36話 自称『中級者』という面倒くさいだけの人

「すいませ~ん、バイトの面接に来たんですけど」

 行動力だけは人一倍のナミ、早速、宅配ピザのバイトの面接に漕ぎつけた。

 事務所に通されたナミ。

 久しぶりの面接でスーツなんか着ると就活を思い出し、なんだか気分が若がったようでウキウキしている。

「はい、じゃあ履歴書を拝見します」

 店長がナミの履歴書に目を通す。

「商社で…独立してカフェ経営で…ウチでアルバイト?」

「はい」

 店長のニュアンスを読み取らず、躊躇いのない返事を返すナミ。

「やっぱり、経営厳しんですか?」

「いえ、補助金で、それなりに、まぁなんとか潰さずにやってます」

「でもバイトって…本業の方は大丈夫なんですか?」

「はい、休業ってことで、2週間…補助金狙いでいきます」

「うん…狙いって…思っていても口に出さない方がいいですよ」

「はい、今日からでもイケますけど?」

「えっ? 今日から? いや…ん?アレ…作る側を希望…なんですか?」

「はい、もちろん」

「経験があるということで?」

「ないですよ、だから習いにきたんじゃないですか」

「ないけど…作りたいの?」

「違いますよ、ないから作りたいんですよ」

 数秒の沈黙の後、口火を切ったのは、まさかのナミであった。

「店長さん、ワタシ、ピザを作りたいんですよ」

「働きたいじゃなくてね?」

「はい、労働は二の次です」

「バイトの面接で労働は二の次とか言わない方がいいですよ」

「はい、以後、気を付けます」

「手遅れで~す」

 その場で不採用であった…。


「ダメだったのよ~」

『カフェ兎彩』のカウンターで凹むナミ。

「話を聞く限り、だろうなって思うよ」

 他人の店で自宅並みに寛ぐコトネ、ナミから面接の様子を聞いて深く頷く。

 カランッ♪

 とドアが開いてナツコが入ってくる。

「ナ~ミ~、見つけてきたわよ~」

 裏紙にプリントアウトしたコピー用紙をナミに渡す。

『お料理教室』

「ねっ? 来月からイタリアン家庭料理実習らしいのよ~、一緒に行かな~い?」

「イタリアの家庭料理…ってなんだよ?」

「イタリア人が~普段食べてるものよ~」

「毎日、ピザとパスタ食ってるのかよ?」

「そうなんじゃな~い」

「そんなわけねぇだろ‼ ナツコ、オマエ毎日、お好み焼きと蕎麦を食うか?」

「お好み焼きとピザは違うわよ~」

「同じだろ‼ アイツ達も毎日は食わねぇよ‼」

「え~? 食べると思うな~」

「家庭料理って、ド定番だぜ‼ ピザが奴らの定番ってことはねぇ」

「なによ~、じゃあ、何を教えてくるってのよ~」

「もっとこう…なんていうか…ドチャッとした感じのだなー‼」

 コトネが両手で大きく大雑把な料理を表現したがっているが、残念ながらイメージすらないので伝わらない。


 あーだこーだ言い合う2人を遮るようにナミがスクッと立ち上がった。

「行く‼ 家庭料理…いいかもしんない‼」

 ナミの、やる気スイッチがONになった。

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