第35話 ウスターソースを選べるようになったら一人前

 カタカタと重箱を片付けているナミ。

「なんやかんやで残らなかったじゃない」

「冷めたケンタと、すき焼きには苦労したぜ」

 コトネが6本目の酎ハイを空けた。

「あらっ、それはそれで美味しかったわよ~」

「そりゃ、ナツコの味のない料理と比べりゃ味があるってだけで尊いだろうよ~」

 思わずナツコの旦那とカオウが深く頷く。

 キッ‼と睨んだ者を石にでもする勢いで旦那とカオウを睨むナツコ。

「やっぱり昼はイタリアンよね」

「オメェのとこランチは中華じゃねぇか‼」

 ピザを喰ってご満悦ナミの一言にコトネが嚙みついた。

「ピザか…作ったことないわ…チャレンジしてみようかな? 窯作り」

「窯作りかよ‼ ピザは‼」

「バカね、コトネ…窯が先じゃない? どこで焼くつもり? 」

「レンチンでいいんじゃね?」

「それじゃ~冷凍ピザじゃな~い」

「そうよ、手作りの窯焼きピザって冠で800円増しで売れるんじゃない」

「800円増し? 冷凍ピザの? ナミ…オマエ、いくらを想定しているの?」

「そうね…パスタとピザのランチセットで1800円?」

「高ぇよ‼ 1000円は切れよ‼」

「えー? ミニパスタと一口ピザになるわよ」

「一口ピザって…聞いたことねぇよ…ガッカリ感が半端ねぇな」

「ミニパスタはOKなの~?」

「半チャーハンみたいなノリで押し切れないかな?」

「中華かよ‼ その感覚で言うと、半チャーハンと一口ラーメンで1800円だからな‼ 誰も頼まねぇよ‼」

「そうね~一口ラーメンは嫌ね~、あっ‼ じゃあ~半チャーハンとカップラーメンで~500円とか?」

「カフェでカップラーメンって時点でOUTだからなナツコ…」

「そうね~イタリアンだもんね~」

「中華かイタリアンかの問題じゃねぇよ…」

「よし‼ こうしよう‼ 冷凍ピザとレンチンパスタで800円‼」

「作る気ねぇなー‼ ナミさんよー‼」

「いやぁ~窯作る自信がねー無いのよねー」

「窯は手作りで~ピザはインスタントとか~ウケる~」

「窯は業者で、ピザは手作りであれ‼」

「クルクル回すの~ちょっとやってみた~い」

「だよねー」

 ナミとナツコが手をクルクルさせて笑っている。

「で?」

「ん?」

「で、どこで習うんだ? ピザ作りをよ‼」

「ピザ屋に決まってるじゃない」

 さも当然のようにナミが真顔で答える。

「オメェは、今からピザ屋でバイトする気か‼」

「そうね、社員を目指すわけではないから、1日2時間程度、2週間でマスターする気でバイトするわ」

「凄~い、ナミ、意識高い系のバイトね~」

「へへへ…そう?」

「そうよ~、1日2時間、2週間でマスターなんて~、普通言えないわよ~」


 稀にみる、お気楽者2人を冷めた視線で見るコトネであった。

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