第33話 体力を消耗すれば食欲なんか湧きゃしない

「なんでアンタが一番疲れた顔してるのよ」

 カオウの通う保育園での運動会当日、午前中も山場を迎え、生き生きと跳ね回る園児をボケーッと見ているナミ。

 その手にはエナジードリンクが握られている。

「なんで参加していないアンタがエナジー注入してるのよ」

 コトネのツッコミなんぞ耳にも入らない程、疲弊しているナミ。

「注入されてるの~、なんか疲れっぱなしの顔してるけど~」

 親子三人4脚でカオウを引きずる様に一位を勝ち取ったナツコ夫妻、ナツコはママ友グループにチヤホヤされて上機嫌なのである。

「勝利に貢献した後の一本って爽快だわ~」

 おっとりしている口調とは裏腹に、運動神経は良いのだ。

 生き生きとしたナツコ御一家、競技には参加しないただの応援に呼ばれただけのコトネはすでに酎ハイを2本空けている。

 そして弁当納品を終えたナミは…全種目参加したような疲労感が駄々洩れていた。

「ナミ~、ワタシの面目ってものがあるんだから~、それなりの弁当を用意できたんでしょうね~」

 ナツコが重箱をジーッと見ながらナミに尋ねた。

 無言でコクリと頷くナミ。

「ちょっと開けてみようぜ」

 コトネが重箱に手を掛けるとパシッとナミがコトネの手を軽く叩いた。

「おいおい…まさか…開けたらカロリーフレンドが敷き詰められているんじゃねぇだろうな…」

 ギクリと強張るナミの表情、確かにその案も存在していたのだ。

「IFの世界では在り得た可能性のひとつではあったわ…でも違うの…ちゃんと作ったの、この世界では」

 ナミは否定した。

「ナミ~、ココでお弁当をママ達に見せつけてやれば~店の宣伝にもなるのよ~」

 確かに…『カフェ兎彩』の客層をABC分析すれば『A』がナツコ夫妻とコトネ、『B』が格安ランチ目当てのサラリーマンとOL『C』がナツコのママ友である。

 その『C』ランクを『B』まで上げられたとすれば…いや…しかし『B』ランクに属している客層は頻度はあるが利幅的には少ない…ソコをあげる必要性?…そもそも考えれば、利幅が少なく回転率だけ上げるということは…

(忙しいだけじゃない?)

 とか思ってしまうあたりがナミという人間である。

 程よく、いい塩梅で忙しく、時に手隙になりつつ、平均点より、やや上、云わば75点で着地したいのだ。


 そんなことを思いつつ、友人の気遣いをスルーしながらグラウンドで寛ぎ、なんなら暇つぶしに赤とんぼを構っていたら、昼食になったのである。


「開梱の義を始めます」

 なぜかコトネが仕切りだし、広げられたレジャーシートの中央にデンッと重箱を鎮座した。

 運動会の昼食とは思えない空気の重さ、緊張感が場を支配したのでございます。


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