第27話 揚げ物の主役は衣

(猫も夢は視るのよね)

 住居兼店舗『カフェ兎彩』に戻ったナミ。

 野生の欠片すら感じない同居猫♀『ざるそば』の寝姿を、しみじみと眺めて思った。

(占ってみたい‼)と…


「カカカカカ…クカッ‼」

 寝言なのか目を閉じたまま普段は出さないような声で鳴く『ざるそば』への興味を抑えながらキッチンへ向かうナミ。

 診察という難儀なイベントを乗り越えたご褒美にハイカロリーな遅めの昼食を摂取することに決めたのだ。

(カツ丼しかないわ‼ 一択‼)


 手際よくカツを揚げ卵でとじてカツ丼を作る。

(……コレで満足?)

 絵にかいたような『こういうのでいいんだよ的なカツ丼』を前にナミは思ったのである。

(私の人生そのものじゃない‼)

 素直に食えばいいのに…


 ………

「で?」

 アイスティの氷をカランッとストローで回しながらコトネが興味なさそうにナミの顔を見る。

「そのカツ丼を食べながら泣いたのよワタシ」

 カツ丼に自らの人生を重ねた女を前に言葉を失う友人コトネ。

(かける言葉がみつからねぇ…)

「でね、色々作ってみたのよ」

「カツ丼を?」

「そう、あの日以来、食事は、ほぼカツ丼」

「ナミ、あんたハイカロリーな人生選んだな、おい」

「なんかオリジナルなカツ丼をウリにしたいのよ」

「カフェなのにか?」

「だからよ‼ カフェ感のあるカツ丼を考案したいのよ」

「だからよ‼ 誰がカフェ入ってカツ丼頼むんだよ‼ カオウくらいだぞ、そんなの」

「カフェで客が来ないからカツ丼で客を呼ぶのよ‼」

「……一応…危機感はあったんだな…ソコはソーリー」

 カランッ♪

 ドアが開いてナツコが入ってきた。

「買ってきたわよ~ナミ~」

 テーブルにポンッと置いた本

「なにこれ?」

 コトネがヒョイッと手に取った本のタイトル

『運命を読み解け‼ 夢占い』

「読み解くわよ~‼ ナミ~昨日の夢は~」

「昨晩…そうね…家畜に追われる夢を視たわ…フォークを持っていた気がする…虫歯菌が持ってそうなやつ」

「トンカツじゃねぇか‼ 食いすぎの罪悪感と肥満への不安じゃねぇか‼」

「コトネ~、ソレを先に言っちゃあ、おしまいなのよ~」

 ナツコがパラパラと本をめくる。

 キーワード

『豚』

「ナミ~豚の夢は、いい夢みたいよ~、生命力とか経済力の象徴だって~」

「外れてんじゃねぇか‼ 股に顔生やして、店は開店休業の果てに迷走のスタートを切らんとしてるじゃねぇか‼」

「あっ…でも豚に襲われる~は…怠惰な生活への戒めだって~アハハハ」

「怠惰って…七つの大罪じゃない…私のどこが怠惰だというの? こんなに新規顧客獲得のために動いているのに‼」

「ナミ~、食べ過ぎに注意とか偏食のときに視るみたいよ~」

「当たってるな…その本、出版社どこ? やっぱりKADOKAWA?」


 絶句したナミ。

 とりあえずダイエットから始めることにしたそうだ。




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