ナミ定期健診に行く

第26話 創作料理という名の迷走

「96番でお待ちのお客様…診察室へどうぞ」

 96番、それはココでのナミの呼び名である。

 そう、ここは病院。

 その後の人面痩…謎の出来物の経過観察に訪れたのだ。

「……」

 無言で立ち上がり診察室へ入っていく背の高い女、横から見ると凹凸の無い平らな身体、そうナミである。

『96番』は重い足取りで診察してへ入り医者が「どうぞ」と言う前にポスンッと丸椅子に腰を下ろす。

「その後、問題ありませんか? 一応切除したので再発はないと思いますが…」

「それが…気になることが…」

 ナミが下を向いたまま重い口調で話し出す。

「傷跡が残りそうとか?」

 医者がナミに尋ねた。

「いえ…傷跡は目立たないんですが…」

「違和感とか?」

「いえ…違和感とは…また違うようで…言うなれば、残尿感?」

「残尿感?」

「いや…漠然とした不安感…かな?」

「再発の?ということでしょうか?」

「再発するんですか? やっぱり…」

「あっ、いえ…そういうわけではないんですけど、切除後の再発はあまりないと思いますが」

「先生、予知夢ってあるんでしょうか?」

「……えっ?はい?」

「予知夢ですよ、未来的な夢を視る的な」

「的?」

 医師が要を得ないような顔でナミに聞き返し、念を押すようにナミが答える。

「的‼」

 フイッと顔をあげたナミ、困ったことに真剣な面持ちである。

「先生‼ 夢に視るんです。なんか顔が生えてきて喋りだすんです、しかも流暢に‼」

「……えっ? 傷口からですか? 顔が…生えるんですか?」

「嫌だな~、夢でですよ夢で~」

 アハハと笑うナミ

「えぇ承知していますけど」

「でも、生えてくる顔は様々で、女だったり男だったり、あっ猫もあった、犬は…ないな、私、ネコ派だし」

「えぇ、で?」

 呆れ顔の医師、それを真顔で受け流すナミ。

「先生、イヌ派ですか?」

「なんの話です?」

「いや先生がイヌ派かネコ派かって話ですけど」

「アナタが納得するなら答えますが…イヌ派ですかね」

「イヌ派かー、いやーどうかなー」

 腕組みをして天井を見上げ考え出すナミ。

 見かねた看護師が小声で医師に

「先生…診察のお時間が…」

「ん…あっと…その経過が良好ならば問題ないので…」

 慌てて医師が本筋に話を戻した。

「えっ? 良好ですか? 私」

「傷口も化膿してないようですしね」

「でも悪夢にうなされるんですよ、メンタルケア的に問題あると思うんですよ」

「…はい…では心療内科にカルテを回しますから、そちらで…」

「いえ…いいです…夢占いによると、必ずしも悪いことが起きるわけでもないようなので…あっ、先生、今朝、夢視ましたか? 占いましょうか?」

「あの…その…外科的観点から問題なければ、お帰り頂いて結構なのですが…」


 最近、夢占いにハマっているナミなのである。

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