第23話 薄味を薄いと言えるのが本当の食通

「おいっす、うぃっす」

 コトネが日曜日に顔を出す、お昼には早く、朝というには遅い微妙な時間。

「ナァー」

 ザルソバが「いらっしゃい」的に鳴く。

 一応、看板娘としての自覚はもっているようだ。

 カフェ『兎彩』の売り上げがダイレクトに食事のグレードに反映されるシビアな資本主義社会で生きている猫様なのだ。


「何してるのナミ?」

「ハンバーグだそうよ…」

「何が?」

「次のメニュー」

「何の?」

「ナツコが次にチャレンジする料理」

「いきなりハードル高くない? アタシも作ったことないわよハンバーグ」

「本人の強い希望なの」

 不安の色が隠せないナミ。

「今日来るの?ナツコ」

「来るわ…夕方に来るわ」

「あ~晩飯のおかずをココで作ろうという感じね」

「うん…だから材料は自分で買ってきてって言ったのよ」

「……そこからして不安だな…」

 カフェオレが妙に重い味に変わったコトネであった。


 ………

「来たわよ~ナミ~」

「随分、早ぇな、おい」

「あらっ、コトネも料理?」

「いや…オマエが来る前に帰ろうかとも思ってたんだけど、妙に早くねぇ? 17時過ぎとか聞いてたんだが」

「そうなのよ~、なんかね~楽しみで~早く来ちゃった、どうせ暇だろうしいいかな~ってね」

「ってね…じゃないわよ」

 奥からムッとしたナミが顔を出す。

「なぁみ~、来たわよ~」

 ドサッとスーパーの袋をカウンターの机の上に置くナツコ。

 ちなみにマイバッグは持たない派である。

 コロン…と袋からパプリカが零れ落ち、『ザルソバ』がヒクンッと耳を動かし転がったパプリカを前足で弾き遊びだした。

「ナツコ、パプリカ…一応確認するけど、彩りの付け合わせだよな」

 コトネが袋を覗き込んで嫌な予感を感じたのだ。

 カラフルなパプリカが付け合わせにしては多すぎるな~と思ったのだ。

「えっ…ハンバーグに入れないの~?」

(練り込む気だったんだ、やっぱり…)

「肉が死んでそう、野菜バーグかよ」

 コトネが顔をしかめる。

「カオウはピーマンは嫌いだけど~、パプリカは食べるのよ~」

「それは…なんにでも入れるからじゃないかしら?」

 ナミがエプロンをポンッと2枚投げてよこした。

「…まさか…アタシもか?」

 コトネが目の前に投げられたエプロンを嫌そうに見ている。

「この量を見て…アホ程できるわハンバーグ」

 ナミが呆れてスーパーの袋を指さした。

「や~ね~、今日はココで、ご飯食べる気なのよ~」

 ナツコがニコニコ笑っている。

(洗い物とかしなくていいしな…考えてやがる)

「始めるわよ~」

 エプロンを身に付け拳を突き上げるナツコ。

「お~っ…はぁ~」

 釣られたコトネ、一瞬遅れて、ため息が漏れた。

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