お時給というもの

第21話 豆腐は冷奴とかいうヤツ…はぁ~?

「料理のさしすせそ?」

 ナツコがナミに料理を習っている。

 ナミが思うにセンスがないわけではない。

 ただ…

(抜群に調味料の使い方が破綻している)


「そう、さしすせそよナツコ、基本調味料のことよ」

「基本…聞いたことはあるのよ~」

「まずは『さ』」

「う~ん、砂糖?」

「正解、次は『し』」

「し…し…醤油ね」

(2文字目にして…ベタな間違いを…)

「じゃあ『す』は?」

「す…す…使ったことがあるものだと~………すだち‼」

(柑橘類に飛んだ…)

「飛ばして『せ』」

「せ…セロリ」

(お野菜に…)

「最後は『そ』」

「ソース~‼」

(即答で間違えた…)

「何問正解?ナミ」

「正解とかじゃなくて…いや、何問といえば1問だけなんだけど」

 この数分のやりとりでドッと疲れたナミ。

「1問? 驚くべきことね~、醤油は自信があるのよ~」

「うん…それは『せ』よ」

「なんで『せ』が醤油?」

「昔の書き方らしいよ『せうゆ』と書いて『しょうゆ』と読むんだったかな」

「あ~、セロリと書いてショロリみたいなことになるのね~」

「調味料にセロリないから」

「うん、でも私好きよセロリ~」

「すだちも好きでしょ?」

「好きね~、味無いな~って思ったら絞るのよ~」

「使用頻度高そうね…」

「割と使うわね~不思議と~」

 それだけ味がないということなのだと、言いかけたナミだったが、とりあえず黙っていることにした。

「調味料の基本的な使い方からね」

「基本って~ナミ、私をバカにしすぎじゃな~い」

 ナツコが不満そうにナミを見る。

「基本ができてりゃ、無味な料理は量産されないのよナツコ、現実を見て自覚してちょうだい」

「いやだわ~、現実を見据えたうえで、アナタのとこに来たんじゃない~、お料理教室行く前に~」

「……無償奉仕だと思ってないわよね?」

「……違うの? 払うの?」

「材料費と時給は発生させてちょうだい、アナタのスキル、すべてを消し去る能力を発動させないで」

「嫌ね~、そんなスキルあれば、ナミの人面を亡きことにしてあげるわよ~」

「料理のようにね…無味無臭にね、消してほしかったわよ…マジで」

「時給はさておき、やるわよ~」

 のんびりした口調で両手を上に、やる気を見せるナツコ。

「時給は置いていかないで…マジで勘弁してナツコ」


「カオウの味覚を取り戻すためにガンバロー‼」

 なんだか楽しそうなナツコ、その横のナミ

(この女、ホントにタダで乗り切ろうとしてないわよね…)


 こうして、ポピュラーな家庭料理を教えることとなったのである。

 ひょっとしたら無償で…。


 果たしてカオウの味覚を取り戻せるのか?

 いや、そもそも失ってはいないと思うが…。

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