第20話 おでん と 煮もの の違い?

『ザルソバ』

 カフェ『兎彩』で懐きの悪い黒猫として猫好き客を確保している看板娘なのである。

 漆黒の毛並み、金色で目つきの悪い、やや小型の娘さん(推定2~3歳)なのである。

 懐かない『お猫様』として、ある程度一定層の固定客を掴んでいるのである。

 そもそも、『ザルソバ』は静かな場所を好みつつ、適当なタイミングで構われたいという難しい性格をしておられる。

 構うタイミングを間違えるとフイッとソッポを向いて場所を変えてしまわれる。

 そのときのスッタラスッタラ歩く姿が実に優雅なのである。

「貴族? いえ王族よ」

 そんな囁きが聴こえるとか聴こえないとか…。


「まぁ、アレだな、兎彩の黒い宝石って感じだなザルソバは」

 カウンターで兎彩オリジナルブレンドコーヒーを飲みながら目の前を横切る『ザルソバ』を見ているコトネ。

 その右手は、うっすら血が滲んでいる。

 そう『ザルソバ』の機嫌を損ねたのである。

「悪構いするからよコトネ」

「途中までは喜んでいたはずだ」

「うん、一線を越えたのよ…そういう娘だから」

 コトネに絆創膏を差し出すナミ。

「悪いなナミ」

「いいのよ、お会計に入れとくから」

「ん? 一応聞き間違いかもしれないから聞き返すが…有料なのですか?」

「消毒液もあるけど、どうする?コトネ」

「絆創膏だけで無問題」

 親指をグッとサムズアップするコトネ。

「で?おいくらなのかしらナミ?」

「全部で……1,780円ね」

「絆創膏込みよね?」

「オフコース」

 すでに、220円のおつりを用意しているナミ。

「オマエの店…オリジナルブレンドは時価?」

「オフコース」

「シェフのきまぐれサラダ的な感じか?」

「きまぐれ…迷ってはいないので、なんかコレくらいならイケそうな気がする的な意気込みでブレンドしてるわ、何て言うか…ナミの意気込みコーヒーみたいな感じ」

「その意気込みで、コッチはやさぐれそう…お高いわ、とても…とてもお高いわ、チョモランマのように」

「2千円だしてよ」

「もう、ボッタくりカフェ…ギリギリ、訴えられない程度の金銭を要求してきやがる、そこが腹立つ‼」

「コトネ、大事なのは価値観なの、付加価値なの、猫カフェなら納得でしょ、でもね、ココは猫カフェじゃないの…猫がいるカフェ…サプライズよね」

「その猫に流血させられて、まさかの絆創膏1枚追加料金払ってんだよ‼ むしろ治療費払え‼」

「コトネ、言ったわよ…ココは猫カフェじゃないの、キャストさんじゃないの『ザルソバ』は…だから払う必要ないの、たまたま居た猫だから」

「毎日、いるじゃねぇか‼」

「不思議ね…アナタの引きの強さかしら?」

「偶然だったのか…居ない日もあるのか?」

「わからない…タイムカードとかないから、キャストさんじゃないから」


 新たな商法を産み出したナミ、数少ない固定客の単価を上げるために頑張れ‼

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