第19話 混ぜると足すとじゃ大きく違う

「結局、パーティと呼ぶか、飲み会と呼ぶかの差でしかないわ」

 カフェ『兎彩』のカウンターで頬杖をついて正面で適当にソフトドリンクと酒を混ぜてオリジナルカクテル作りに真剣なコトネを呆れたような目で見ているナミ。

「話しかけないでちょうだい‼」

 どこまでも真剣なコトネ、今日は珍しく素面しらふである。

「ヒマなのコトネ?」

「この店の店主にだけは言われたくないものね、ナミ」

「そうよ~、せっかく、この間、ただで模様替えしてあげたのに~」

 テーブル席で、パフェを食べているナツコがコトネの尻馬に乗る。

「模様替え…という名の後片づけじゃない、あんなにゴミを持ち込むから」

「カラーボックス?カラーボックスのことかー‼」

 コトネが叫ぶ。

「ク〇リンのことかー‼のテンションで叫ばないでくれる…あと、次に店で大声出したら、ひっぱたくから…」

「まぁまぁナミ、いいじゃない、他に誰もいないんだから~」

 ナツコが空になったパフェの容器を流しにおいてナミをなだめる。

「ザルソバがビクッとなるのよ、ビクッって‼」

 ナミがザルソバを指さすが『ザルソバ』はテーブルの端で毛づくろいしている。

 コトネが勝ち誇ったように

「落ち着いているじゃない」

 グッと一瞬黙ったナミだったが

「アレでもドキドキしてるの‼ 私にはわかるの‼」

 クアーッとアクビするザルソバ

「おくつろぎじゃない」

 コトネが冷めたような口調で言い返した。

「ざるそばー‼」

 思わず怒鳴ったナミの声でビクッと強張るザルソバ

「オマエの声でビクッとなってるじゃねぇか‼」

(ザルソバ…なぜに同居している私に懐かない?)

 ジトーッとザルソバを懐疑的な目で見るナミ。

 ザルソバは考えていた。

『なんか…怖ぇな、あの女…』

 ザルソバにとってナミは同居しているだけの存在、別に懐いているわけではないのだ。

 安全に過ごせれば、それでいい…しかし、あの女は、時折ワタシにプレッシャーを与えてくる…なぜか?なぜなのか?


「親しき仲にも礼儀ありってことよね~」

 ナツコがザルソバの喉を撫でる。

「うなぁ~」

 ゴロゴロと喉を鳴らして目を細めるザルソバ

(ザルソバ…今日の晩御飯はカリカリよ、安っすいカリカリよ、大袋のヤツだから、決定だから)

 密かにザルソバに対して小さな嫌がらせを計画するナミである。


 結局、酔っ払ったコトネをナツコがアパートまで送ることになって、カフェの明かりが消えた。


「ザルソバー、ごはんだよー」

 ナミがザルソバ専用のトレーにカラカラカラカラ…とカリカリを笑顔で入れて差し出す。

『うなっ?』

 不服そうな顔でナミを見るザルソバ、そして尻尾の毛がサワッと逆立った。

(この女…なにを怒っているのかにゃ?)


 笑顔のナミに妙な気を感じ取るザルソバ、今夜のところは大人しくカリカリで我慢しておこうと思うのであった。



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