第13話 ふきのとう は美味い不味いで食うものじゃない

「あっナ~ミ」

 帰り際、目を擦るカオウの手を引くナツコが忘れてたといった様子で振り返ってナミに声をかけた。

「なに? お釣りは渡したわよ」

「値引きはしてねぇけど」

 コトネが笑う。

「あのね、カオウの誕生日来週なのよ~」

「そうなん? ケーキとか作れとか?」

「それもそうなんだけど~、この店で誕生会をお願いしたいのよ~」

「ゲッ!?」

 割と子供が苦手なナミ、お誕生会とか? 子供がワサワサやってくるとか?

「ココ、ヒマそうじゃな~い、丁度いいかな~って」

「ナツコ、後片付けとか準備とか面倒くさいなーとか思ってない?」

「思ってるわよ~、家とか汚されたくないし~」

「うん…いいじゃん、金は取るんだろナミ」

「取るわよ、ぼったくるわよ」

「予算は3万くらいで頼むわよ~」

「3万…貸し切りで3万…考えられねぇわよ」

「いいじゃねぇかナミ、どうせ売り上げ、それ以下じゃん開店しててもさ」

「うっせぇわよ」

「5人くらい呼ばなきゃなのよ~、お願いしたわよ~じゃあね」

「じゃあね…ナミばあ、ケーキでかいのな」

 カオウがアクビしながらケーキの注文をしてきた。

「メロンかと思ったらピーマンでした的なケーキ作るわよ」

「ピーマン…パプリカのことか? 俺、食えるぜ」

「可愛くねぇ…」

「意外と好き嫌いないのよ~、ほらっ、ワタシの料理、味がしないから~」

 ニコニコと笑うナツコを見てナミは思った。

(笑ってる場合じゃないんじゃないかしら…素材の味を消す調理って、もうマジックよ)

「調味料とか意味がわからないのよ~、じゃね、ナミ、コトネ」

 眠くてフラフラしているカオウの手を引いてナツコは帰っていく。

「すげぇよな、アイツ…ピーマンの苦味とか、いとも容易く消し去るんだぜ」

「そうね、ある意味では調理業界のカリスマになれる素質を持ってるのよナツコは」

 ナミは、ナツコの後姿に女帝の風格を感じたのであった。

「ところでナミ…ケーキにロウソクが刺してあります…何本刺さってる?」

「はい?」

「心理クイズよ」

「突然なによ」

「答えなさいよ」

「………なんかね、海外のホームパーティみたいな感じで、やたらと刺してあった、なんなら上じゃ足りなくて、横にも刺さってた」

「想像力豊かねナミ」

「そう? それでなにがわかるのよ?」

「……いや…ちょっと想定を超えていて、答えられなくなったわ」

「なんなのよソレ‼」

「うん…なんだったんだろうね」

 間の抜けた夜は更けていく…


 訳ありアラサー独身女子の心理などテンプレで理解できるものではないということなのかもしれない。

 人それを心の闇と呼ぶ。

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