第12話 素材の良さを引き出す料理的なコメントの意味

「あいっかわらず、のっぺらい料理なのねナツコ」

「不思議…料理って足し算なのに、引き算されてくのよね~」

 星ナツコ…手を加えれば加えるほど、素材と調味料の特徴を消し去る女。

「キッチンで負の連鎖反応を起こすのよ」コトネ談


 カフェ『兎彩うさぎいろ』どうせ誰も来ないのだからとコトネを呼んで、夕食をココで済ませてしまえとなったのである。

 キッチンでナツコがホットケーキを焼いてみたのだが…

「すごいわ…もう小麦粉の味すらしないなんて…」

 一口食べたナミの感想である。

「どうだ凄いだろママは」

 カオウが泣きそうな顔でコトネに何かを訴えてくる。

「カオウ…オマエのママは呪われているのかもしれねぇ」

「えっ?」

 不安そうな顔でナツコを見るカオウ。

「ママ…呪われてるの?」

「あぁ…こんなに味はしねぇのに、オマエが昨日、餃子を喰ったことは解るという奇跡、もはや呪われているとしか思えねぇ」

「そうね…ただ臭みだけを残す無味の餃子とか…もう食品サンプルをかじった方がマシね」

「サンプル程度に見栄えはいいと思うんだけどな~」

 制作者であるナツコも、一口食べて首を傾げる。

「そこからの無味だから怖いんだよ」

 コトネはカウンターでココアを飲みながらザルソバを構っている。

「カオウの好物がカロリーフレンドってのが理解できるわ」

 ナミがホットケーキにチョコをかけて食べている。

「ナミ…太るわよ~」

「うん…アンタのせいよ」

 カオウは、すでに寝ている。

「カオウ、って…おはようから、おやすみまで愛されるように…って命名理由だったっけ?」

 コトネが持ち込んだ缶チューハイを飲みながらナツコに尋ねた。

「コトネ、一応カフェだから、持ち込み禁止だから」

「そうよ~今はうるさい時期なのよ~自粛とか時短とか~」

「だから、ナミ側からは提供できないから、持ち込んでるの、気遣いよ」

「そりゃどうも…売り上げにならないので迷惑です」

「もう閉めちゃいなよ、どうせ客来ないわよ」

 コトネが勝手に『OPEN』から『CLOSED』にパンッと切り替える。

「まぁいいか」

 ナミもコトネが買ってきた缶チューハイのプルタブをプシュッと開ける。

「今日はカオウと輪ゴムを飛ばして一日が終わってしまったわ…」

「まぁ30手前の人間が、何をしているのかと問いただしたくなる発言ね」

「楽しそうだったわよ~ナミのほうが」

「ソコが一番問題なのよ…ナツコ」

「まぁ…ヒマつぶしにはなったわ」

「幼児相手に全力で暇を潰すって…ナミ…ヤバくない?」

「コトネ…そういう日もあるってことよ」

「そうよ~、割とあるのよ~ナミは」

「それが問題なんだよ…」


 夜は更けていく…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る