子供に好かれるってだけで?

第11話 ボルシチって、よく聞くけど食べたことは無い

「いいわよね~ナツコは…」

「そうでもないのよ~アレが…手に余るのよ~」

 看板猫『ザルソバ』を追い回す小さい男の子、ナツコの息子である。

 カフェ『兎彩うさぎいろ』の女王である黒猫『ザルソバ』退かぬ、媚びぬ、顧みぬ…3拍子揃った漆黒の女王様を気取っているが、意外に苦手な人間が多いのである。

 ある意味では名ばかり管理職なのかもしれない。

「さーるーそばー‼」

 店内で猫を追い掛け回す、無駄に元気のいい男児『星 華皇カオウ』3歳。

 仮面ライダーになるために現在、修行中の実であるという。

「カオウ‼ てめぇザルソバにストレスを与えるんじゃねぇわよ‼」

 ナミが怒鳴るが効果はない。

「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ、ナミばぁ」

 中指立てて舌を出すクソガキ『カオウ』

「困ったわ~、流行に敏感で…」

 あまり困った様子の無いナツコ。

「くせぇ口塞げや限界です‼」

 ナミが太い輪ゴムを指で弾いてカオウの横っ面をバチンと弾く。

「いてぇ‼」

「ザルソバを虐めるなカオウ」

 静かに言い放ち、冷ややかな視線でカオウを睨むナミ。

 バチンッ‼

 無言で落ちた輪ゴムを拾い、ナミの顔面に放つカオウ。

「………クソガキがー‼」

「クソババがー‼」

 店内で輪ゴムを飛ばし合う2人、その年齢差25歳…互角の攻防である。

 そんな自由が許されるほど、本日も客がいないのである。

「餃子くせぇんだよクソガキ‼」

「昨晩、餃子だったのよ~ウチ、わかる?」

「わからいでか‼」

「餃子フレッシュ‼」

 パンッ‼

 カオウが息をため込んだビニール袋をナミの顔の前で叩いて破る。

「くせぇ…カフェに中華持ち込むんじゃねぇわよ‼ バカ族馬鹿家族の略がー‼」

「そうなのよ~、行くとこなくて~、仕方なくココに来たのよ~、ほらっ、ココなら誰の迷惑にもならないでしょ~」

 グサッ…

 ナツコ親子にとって近所の暇なカフェ『兎彩うさぎいろ』ココは絶対、他人に迷惑をかけない隔離空間なのである。

「ナミばぁ…俺、甘い物食べたい、喉も乾いた」

 急に冷めたカオウがテンッとナツコの隣に座る。

「じゃあナミ、ホットケーキとクリームソーダを頂戴な」

「ハイハイ…」

 ナミは一応、料理の腕には自信がある。

 ただし…メニューは割と限定されている。

 食の引き出しは少ないが、奥は深いのだ。

「使いにくい引き出しってことね」コトネ談


「おまたせ」

「しました…だろナミばぁ」

「しましま…」

「シマシマは今日のママのパンツだ」

 スパーンッ

 ナツコがカオウの頭を叩く。

「黙って食いなさいカオウ」

「あい…ママ」

 黙々とホットケーキを食べるカオウ。

「ナミばぁのホットケーキは美味いな」

 ニコッと笑うカオウ。

「あぁそうかい…オマエのママの料理は問題があるからね」

 首を傾げるナツコ

「そうなのよね~不思議と味が消えていくいのよね~」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る