第9話 身近で謎の飲料、それがコーラ

「佐藤、メールの文章なんだけどな…ビジネスマナーってあるんだぞ」

 ナミは、少し親しくなると、ついつい言葉の距離感を間違えてしまう。

 社内ならまだしも、取引先でも、やっちゃうタイプである。

 そして…割と本音がでちゃうタイプでもある。

 悪気はないのだ、悪意なんてない…だから反省もない。

 総じて向いていなかった…。

「仲良くなったんですよ~」

「オマエ、ここ会社だぞ‼」

「だから?」

「えっ?」

「だから、仲良くなっちゃダメなんですか? 取引先と? なんで?」

 学生気分の生ぬるい延長、今ならそう言える。

「あのときは、解ってなかったのよ」

 色々経験したナミ社会のルールは薄いガラスのようなものだと知った。

 向こうは良く見えるが確実に壁は存在するのだ。

 ぶつかれば割れる…そう割れるのだ。

 木っ端ミジンコである。


「佐藤…キミしばらくデスクワークな」

 取引先から営業部長へ直接クレームが入ったのである。

 お宅の女子は、どうも教育がなってないようだ…とね。

「…と言われたんだよ‼」

「私、言うほどオタク気質じゃないと思いますよ、えっ?私は何オタクだと言われたんですか? オタクとして知識が不足しているということでしょうか? 何系の知識が?」

「オマエに足りないのは一般常識だ‼ 大人しくお茶汲みとコピー係やってろ‼」

 ナミは耐えた。

 2か月ほど…。

 しだいに部長のお茶が薄くなり、最終的に甘茶とか出してみたりもした、お昼にだ。

 もりろん仕返しである。

 甘茶で弁当とか合わないであろうと、もうこうなると小学生の嫌がらせである。

 そんなことしか考えることが無かったのだ。

 人間は暇だとロクなことを考えないものである。

 普段からロクでもない思考回路なのだ、それが社内で暇ならもう故障しているに等しい、1日の半分ほどは暇なのだ、暇になるために出勤するわけだ。

「Hey Siri ドラ〇もんのこと教えて?」

「夢追い人」

「……ソレ、ドリーマーだわ」

 くらいのポンコツAIである。


 部署内のナミの評価はグングン下がっていった。

 社内ニート ナミ爆誕。

 なまじ背が高く、そこそこ出来そうな容姿であるがゆえにギャップが凄い。

 悩んだのだ…。

「なんか私、退屈するために出社しているような気がしてきた」

 寿退社した2名と食事をしながら愚痴る時間が唯一生きていると実感できるのだ。


「ナミ…辞めちゃえば?」

 コトネが退職を勧めた夏のある日。

「そうね~彼氏に結婚とか迫ってみたら~?」

 ナツコの援護射撃もあった。


「ユキオ…私…寿退社したい」

「えっ? いや…その…俺、他にも付き合っている人がいて…ナミと結婚とか?」

「はい?」

「いや…だから…結婚は部長の娘さんとすることになっているから…アレ? 恋人とかじゃないよね…俺達」


 ナミ撃沈した夏の夕暮れ、男の気まぐれ…南無三。

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