第3話 メロンよりもメロン味のほうが好き

「ナミ…ところで今日は貸し切りなの?」

 コトネが一応聞いてみる。

「結果、貸し切りになったようね」

「いつものことよ~、気にしないであげて」

 おっとりとした口調だがナツコの一言はナミの薄い胸をエグッて来る。

 初対面の時からそうであった。

「佐藤さんって美人ってだけよね~」

 研修時、昼食での会話であった。

 ちなみにコトネとは

「いいね佐藤さんは、巨乳はドレスしか似合わないから」

 であった。


 今思えば私は、こいつ等からディスられていたということだ。

 そうなのだ、私が3番目に興じている間にナツコは結婚して子供をこさえて、コトネは結婚して離婚までしていたのだ。

「そうよ、離婚って結婚しなきゃできないのよナミ」

「人の心を読まないでちょうだい」

「そんな顔をしていたわよ~コトネはナミが出来なかった結婚と離婚、2つも経験しているんだな~って顔」

「離婚は別に経験したくない、結婚と出産はしてみたい気はする」

「ゴメンね~、2つとも経験しちゃって~」

「ゴメンね‼ 離婚まで経験しちゃってて‼ 別に経験する気で結婚したわけじゃなかったんですけど‼」

「ううん、いいの…願いは叶ったんだから」

「願い?」

「コトネの結婚式でね、ずっと願ってたの、2か月で離婚すればいいって…半年かかったけど…願いは叶ったの」

「ナミ…友人の結婚式で離婚を願うって…なかなかよ」

「まぁいいじゃない、ナミは結婚諦めて、猫飼ってんだから~、ねぇ~ザルソバ」

 ナツコがカウンターに座っている黒い猫を撫でる。

『看板娘ザルソバ』その目つきの悪さは素人のソレではない女王の風格を醸し出している。

 退かぬ、媚びぬ、顧みぬ…3拍子揃った漆黒の女王様『ザルソバ』

 カフェ『兎彩うさぎいろ』の最初の来訪者である。

 開店初日、フラッとカフェに入ってきた黒猫、ナミのお昼ご飯であったザルソバをモリモリ食って以来、なぜか居ついているのである。

 懐くわけでもなく、微妙な距離感を保ちつつカフェのカウンターで、おくつろぎしている。

 ナミの入院時はコトネとナツコが世話をしていた。

 もちろん懐きはしないが…。

 だが、数少ない来店客の何割かは『ザルソバ』目当てであることは紛れもない事実である。

 首輪の代わりにピンクの大きなリボンを巻いて働いているのだ。

 閉店すると2階のナミの自室で寝ている、ベッドの真ん中で…。

 3食昼寝付き住み込みのアルバイトみたいなものだ。


「ザルソバ~かぁ~いいね~」

 ザルソバはナツコが苦手である。

 スキンシップが過剰なのだ。


「まぁ猫を飼ったら結婚を諦めた証拠よね」

「飼ってないし、雇ってるだけだし」


 あくまで飼い猫だとは認めないナミである。


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