第5話 クラウンで走り出す
伊達
邦子は廊下で宿敵と遭遇した。飯島 隼が迷彩服姿の護衛を連れている。邦子はEotechのドットサイトに宿敵の頭を捉えた。
「いいじーまー! 」
「1人で何人殺したんだ? 殺し屋さんよぉ」と男が言った。
スーツ姿の飯島は余裕たっぷりに襲撃者を皮肉る。
邦子は心の中で怒り狂った。こいつだけは必ず始末すると心に誓う。
激しい銃撃が伊達 邦子を襲った。
地面に伏せた邦子は右手に握った銃で飯島の左足を撃ち抜く。飯島はあまりの痛みに叫びちらした。
「撃ち返せ。コノヤロー!」
「イエッサー」
邦子は体を転がして、廊下を見渡した。部屋以外に身を隠せる場所はなく、壁を遮蔽物にするしかない。
「ちっ」と舌打ちする邦子。
護衛が手信号で指示を出した。
俺がヤツに攻撃を加える。2人は援護しろ。
了解。
2人の護衛が一斉にM4カービンを発射。護衛はマガジンをうっかり床に落としてしまった。コンドルのMCR3 チェストリグからマガジンを取り出し、装着する。
「援護する。先に行け」
「了解」
護衛部隊の隊長は2人が援護射撃する間に、1つ先の部屋に足を進めた。M4カービンの指切りバーストが炸裂する。
「援護! 全力射撃」
壁に鋭い銃弾が当たって粉塵が舞う。5.56ミリ弾が着弾した壁が削られてゆく。邦子は思わず身を縮めた。銃弾が飛び交う音と跳ね返る音が同時に聞こえる。
護衛の男がM4カービンのフォアード・アシストを押して、チャージングハンドルを後ろに引いた。
「ジャムった。この役立たずが」
邦子は心の中で笑っていた。戦場で隙を見せた男。男が無防備にも姿をさらけ出している。
彼女はAR-15の銃口を壁から突き出した。男に狙いを定めて、引き金を絞る。
「バカに後悔を」
男はサファリランドのレッグホルスターから9ミリ拳銃を抜き出した。その瞬間に、2発の銃弾が命中する。男が後ろに仰け反り、胸から赤い血が飛び散った。
部屋を飛び出した隊長が廊下を走り出す。負傷した男を引きずりながら部屋に入れる。廊下に血が滴った後が残った。
「オレを援護しろ! 」
「了解。隊長」
護衛は壁際に突き出した銃口から狙いを定める。指切りバーストをしつつ、部屋の中に隠れる邦子をあぶり出そうとしていた。
邦子は最後の手榴弾を取り出した。安全ピンを抜いて廊下に放り投げる。邦子には、敵がマガジンを交換する前に牽制したいとの考えがあった。
護衛部隊の隊長が「手榴弾だ。逃げろ」と叫んだ時には、転がった手榴弾を投げ返す暇もなかった。廊下に白煙が上がり、破片が周囲に飛び散った。
邦子は壁の影に隠れながらマガジンリリースボタンを押した。硬い床にマガジンが落下する。彼女はポケットから30発マガジンを取り出し、下から差し込んだ。チャージングハンドルを引き、初弾を装填する。
邦子は銃を撃ちながら廊下を走る。銃弾が廊下を走る状況で、敵との距離を半分に縮めた。彼女は確実に飯島との距離を狭めている。
「追いついて見せる」
「あきらめろ! 女! 」
帽子を被った男がフィリピン製のM4カービンを連発する。男は伸縮式ストックをしっかりと肩に当て、フォアグリップを握っていた。
「交換する。援護しろ」
「援護する」
帽子を被った男は、装填済みのマガジンをポーチから取り出し、親指と人差し指で装填中のマガジンを引き抜いた。装填済みのマガジンを押し込み、左手でボルトキャッチを押す。
「来たぞ。撃て! 撃て!」と帽子男が叫ぶ。
隊長が「手榴弾!」と叫ぶ。レバーを握ったまま、左手で安全ピンを抜いた隊長は上手投げで手榴弾を投げる。手榴弾が大きな弧を描いて飛んでいった。
伊達は廊下に伏せた。廊下には隠れる場所はない。手榴弾は伊達 邦子の後方で爆発した。
「これ以上撃たせないつもり」
飯島とその護衛は非常階段を降りて1階に向かった。伊達は激しい銃弾の雨で進めない。
「逃すものか」
伊達 邦子がビルを飛び出すと、飯島が乗ったレクサス LSは屋敷から遠ざかっていった。後ろにトヨタ・マークXとトヨタ・ハイラックスが続く。
伊達はAR-15を投げ捨て、ショルダーホルスターからスプリングフィールド XDを脱き出した。屋敷に使える車両がないか、移動手段を手に入れるために歩く。
伊達と同じく出遅れた人間がいた。男は片足を引きずりながら、黒い日本製セダンに足を進めている。
現行型のクーペスタイルとは異なり、伝統的なセダンがある。クラウン アスリートは稲妻型のメッシュグリルと、光輝く18インチのアルミホイールが特徴だ。
伊達は車に乗り込もうとしたヤクザを投げ倒して、スマートキーを手にした。右のドアを開けて車に乗り込む。
スタートボタンを押すとエンジンが始動した。カーナビにクラウンマークが浮かび上がり、恒例の音声「ETCカードが挿入されていません」が流れる。
クラウンは315馬力、38.4kgmを発揮するV6 3.5リッターエンジンに8速ATを組み合わせている。この賢いエンジンは、状況に応じて、シリンダーに燃料を直接噴射する直噴方式と、吸気ポートに燃料を噴射するポート内噴射を使い分けているようだ。
伊達はクラウンを発進させた。アクセルを強く踏むと速度計が素早く回転する。V6特有の滑らかでジェントルな加速音が聞こえてきた。
「さぁ、地獄の果てまで追いかけてやる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます