第6話 カーチェイス

 東京の街中を猛スピードで走る2015年式のクラウン アスリート。伊達 邦子は飯島が乗るレクサス LS500を追跡していた。

「さすが6気筒、なかなか早いね」


 レクサスにはハイラックスが護衛についている。クラウンの後ろには黒塗りのセルシオとマークXが追いかけてくる。

「3号車、挟み撃ちにしろ」

「了解。殺し屋の好きにはさせませんよ」


 道行く車にクラクションを鳴らされる。伊達はクラクションを鳴らしながら道路を爆走する。信号無視は当たり前、捕まらないのが不思議なぐらいだ。

 クラウン アスリートが角を曲がって、路地裏に入った。セルシオもクラウンの後を追って曲がる。


 丸目ライトのスーパーカブが狭い路地裏を走っている。ホンダ スーパーカブはクラウンと接触して横転した。邦子は思わず「スーパーカブがっ! 」と叫んでしまった。


 クラウンは狭い路地を抜けて大通りに出た。ようやくレクサスが見えてきた。

 護衛は車の窓からMAC-11 短機関銃サブマシンガンを突き出す。四角い短機関銃から放たれた銃弾が窓を貫通した。クラウンの運転席側の窓が放射状に割れる。


 セルシオとクラウンが横一列に並ぶ。セルシオがハンドルを左に切って、勢いよくぶつけた。クラウンにも強い衝撃が伝わり、ハンドルが暴れた。

 クラウンだけを見ていた護衛部隊の1人は、前方の路駐したハイエースに気付かない。セルシオが駐車していた車にぶつかり、反動で宙に跳ね飛ばされた。


 クラウンの後ろには、2016年式のマークXが食らいつくように迫っていた。邦子はハンドルを右や左に切るが振り切れない。

「こちら4号車から1号車へ、3号車が殺られた」

「早くクラウンを潰せ。やっちまえよ」


 クラウンは前方の軽自動車を追い越しつつ、ジグザグ走行する。カーブを曲がる度にタイヤが鳴る。まるで地べたをうようなカーチェイス。視線は車に釘付けになる。


 運転席の男が四角い短機関銃サブマシンガンの銃口を向けた。発射速度が高いMAC-10は一瞬で弾丸を撃ち尽くす。

 伊達はブレーキを踏んで、急減速した。45口径の弾丸は外れたが、まだまだ気は抜けない。


 伊達は白いマークXに体当りを敢行かんこうした。マークXが縁石にぶっかってバランスを崩す。セダンはコントロールを失い、鉄パイプを満載したトラックに突っ込んだ。鉄パイプがフロントガラスに貫通している。車内は目を背けたくなる光景だろう。


 伊達はレクサスに遅れまいとアクセルを踏み込んだ。体が座席に押し付けられる。速度計は120を越えた。 周りの景色が後ろに流れてゆく。伊達は歯を食いしばった。


 歩道からベビーカーを押した親が飛び出してきた。間一髪かんいっぱつでハンドルを切ってよける。邦子は後ろを振り返ってほっとした。

 クラウンは道端みちばたのゴミ箱に突っ込む。プラスチックのゴミ箱が宙に飛び、道路に中身が散乱している。


 後ろから中型バイクが追跡してきた。全身黒ずくめのライダーが片手で拳銃を撃っている。伊達は躊躇ちゅうちょなく運転席のドアを開けた。

 ドアパンチを食らわせたことで、バイクが道路をころがっていった。邦子はルームミラーで全てを見届けた。


 ハイラックスがディーゼルの甲高い音を響かせている。トヨタのピックアップトラックが行く先を阻む。トラックの荷台に乗った男が機関銃を向けた。帽子を被った護衛がM60機関銃を乱射する。

「街中でM60機関銃? 正気」


 クラウンの助手席に7.62ミリNATO弾が命中した。運転席に命中すればおしまいだ。人間が蜂の巣にされる。エンジンが破壊されて車が止まっても死ぬ。


 伊達は小型トラックを盾にしようと考えた。クラウンは日野の2トンの前に出るために右車線に車線変更した。

 その時、邦子は右車線の前方に大型トラックがいることに気づいた。右車線のままでは衝突するのでハンドルを切って左車線に戻って、小型トラックの前に割り込む。


 ハイラックスがクラウンに続いて、追い越し加速をした。運転手を務める護衛部隊の隊長が「危ねっ! 」と叫んだ時には遅すぎた。

 車は右車線を走る大型トラックに衝突した。4枚のドアが外れて、大型トラックに引きずられる。車体の底が道路を擦って、火花を撒き散らした。


 飯島 隼が「クソッ」と怒鳴った。クラウンとレクサスLS500が並走している。伊達が窓を開けて「V6 頑張ってるね」と呟くと、レクサスの運転手は「V6をなめんなよ。ガキが」と怒鳴り散らす。


 伊達はブレーキを踏んでクラウンを減速させた。レクサスのすぐ後ろに回り込み、アクセルを踏み込む。体当たりを一回、二回、三回と繰り返した。重量差のせいか、余り効果がない。


 交差点を大型トラックが横切る。レクサスは慌ててハンドルを横に切った。地下の駐車場にレクサスが入る。クラウンも後を追って駐車場に入る。


 クラウンを降りた邦子はスプリングフィールド XDを両手に構えた。 入り口付近に乗り捨てられたレクサスが見つかった。中には誰もいない。邦子はまわりを見渡す。


 セダン車の後ろにうごめく2つの影がある。隼はデザードイーグル、運転手の山本はコルト・ガバメントの銃口を邦子に向けた。


 1発の銃声が鳴った。伊達はすぐに身をひるがえす。体を転がしながら拳銃を放つ。立ち上がって、近くの日産 シルフィまで走った。

「ちっ」


 山本が拳銃を撃ちながら近づく。飯島が2発の援護射撃。シルフィに銃弾が集中する。ガバメントの銃弾は7発しかない。

「さっさと死ねぇ! 死ねぇ!」


 車の影から山本の足が見える。伊達は左足に拳銃の照準を定めて、引き金を絞る。

「イッテェー! 」と男が叫ぶ。


 伊達はボンネットの上に顔を出し、拳銃を構えた。1発目は右肩、2発目と3発目は心臓に銃弾を叩き込んだ。

「死んだな」


 飯島がボンネットに3発目の銃弾を放つ。

 伊達は日産 シルフィのエンジンブロックを盾にする。伊達は亀のように顔を引っ込めた。4発目の銃弾は前の窓ガラスに命中。邦子の頭に割れた窓ガラスの破片が降り注ぐ。

「くっ……」


 飯島が放った5発目と6発目は前のドアを貫通した。さらに飯島はボンネットに2発を加えた。伊達は飯島が隠れるプリウスに二連射を加えた。前後の窓ガラスが大きな音を立てて割れた。


 飯島は狙いを定めて最後の1発を放った。357マグナムの轟音が鳴り響き、シルフィのミラーが吹っ飛ぶ。

 デザードイーグルを撃ち尽くした後、飯島隼は両手を挙げた。伊達はゆっくりと飯島に近づいた。


 飯島は命乞いをした。「助けてくれ。金は出す」と手を合わせながら言う。邦子はありきたりな決まり文句に呆れた。覆面を外して飯島に素顔を見せる。

「私を覚えてる? 」

「お前… PCXの女か」

「大当たり」


 邦子は飯島 隼の頭に向けて銃弾を放った。女は後ろを振り返らない。伊達 邦子の復讐は終わりを告げた。







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