第879話 観戦ルームと決戦の温度差
京都のイベントホール。
まさに、因縁の場所だ。
剣道着のような和装をした
離れた場所にいる室矢家の女子たちで、剣術に詳しい2人が解説する。
「大小の二刀差しは、抜くのにちょっと違うんだよ」
「剣道だけの人ならば、高段者でも知らない可能性があるわ」
具体的に言えば、脇差に当たらないよう、鞘送りを十分にしないといけない。
刀の振り方にしても、感覚が違う。
「やっぱり、二刀が有利に思えます……」
「魔王である五郎左衛門の戦い方によるね?」
「正直、分からないわ」
この2人が匙を投げたのなら、他の女子は言うまでもない。
剣道のように、向かい合う切っ先が交差した。
その部分をつけたまま、お互いの足が動き出す。
鋭い金属同士がこすれあい、ギャリギャリと嫌な音を立てつつ、火花も散る。
「うわっ! 怖い、怖い……」
「私なら、耐えられずに斬りかかっている」
「えっと……。どうなっているんですか? お互いに刀を当てて、向かい合ったダンスみたいに歩いているようにしか」
「この状態は剣道で、刀越しに相手の動きが伝わってくるから」
「相手の刀を弾き飛ばそうと、お互いに仕掛けているわよ? さっきからずっと」
「へっ? こ、これで!?」
「刀は、ずっと握りしめるわけじゃないから」
「両手を
首をひねっている
同じように向き合った
「じゃ、菫ちゃんは竹刀を弾かれないように!」
「は、はいっ!」
素人らしく、ギューッと両手で柄を握った菫。
物打ちが交差したままで摺り足の凪は、色々と試してから踏み込んだ。
ぐるりと切っ先を回転させて、相手の竹刀を巻き込む。
「あっ!」
ダンッ
しっかり握っていたはずの菫は、あっさりと竹刀を落とされた。
「まあ、こんな感じ! 戻ろう?」
畳の上のお雛さまに戻った菫は、正座をしたままで自分の両手を見つめる。
「今のを真剣で……。ずっと……」
「正気の沙汰じゃないわ!」
呆れたように、
ここで、重遠が仕掛ける。
お互いの切っ先を交差させたまま、突きへ。
距離が詰まって、正面から抱き合うような鍔迫り合いだ。
どちらも退かずに、肩で押し合っているような構図。
「だから、怖いって!」
「こんな斬り合い、最初で最後だと思う」
重遠は右手を柄から離し、鞭のように振るった。
対する五郎左衛門は、左手で応戦。
密着した状態で、片手による打撃戦が始まった。
袖をつかまれては振り払い、その間にも両足が動き、片手で握る刀の鍔迫り合いもこなす。
「情報量が多すぎる!」
「ドラマーかしら?」
お互いに足を引っかけて転ばそうとしつつ、浮いた刀による腕を折り畳むような全身の回転。
相手は、その刀の軌道を避けつつ、倒れるような姿勢からの薙ぎ。
避けるために、後ろへ大きく飛んだ。
両手で構えつつの着地だが、相手の追撃はなし。
「また距離が空いた」
「あっ!」
重遠は、大上段のままで突っ込む。
上から振り下ろされる刀に対して、五郎左衛門はカウンターを狙わない。
受け流しに専念しつつ、摺り足で有利なポジションへ移動していく。
ところが、重遠も正眼で守備重視。
「相手はスタミナ切れや、太刀筋を読むことに集中した」
「でも、重遠はそれに付き合わず」
「ま、試しに打ち込んでみたって感じだね!」
凪と澪の解説。
菫が超空間のネットワークで見ると、重遠は構わずに連撃に入った。
大刀で受ける五郎左衛門の顔が歪み、その位置がズレていく。
「え?」
「すさまじく、重いんだ」
「ええ……。重遠が、これだけの剛剣を使うとは」
と思ったら、瞬間的に重遠が消えた。
スピードだけで突きを放つも、片手だけで伸ばした切っ先は短い刀身で払われた。
刀身で守りつつ、両手の握りに切り替えた重遠が、冷静に左右の刃をさばきつつの後ずさり。
「二刀……」
「抜いたね?」
「今ので決まったと思ったけど」
五郎左衛門は、左手で脇差を抜いた。
かろうじての防御だったが、この突きに重さはなく、あっさりと逸らせたのだ。
大小の刀を構えた五郎左衛門に、重遠も下段に切り替える。
「二刀を相手にしたら、スピード勝負だね?」
「ええ、詰将棋だわ! 一手を間違えたら死ぬ――」
ところが、重遠は正面から斬りかかった。
「え?」
「ちょっと!?」
ざわつく、室矢家の女子たち。
けれど、技とも呼べない斬撃は、五郎左衛門を押していく。
「元々、若さまは難しく考えないタイプです」
正妻の
全員が見守る中で、続きを述べる。
「むしろ、この状態を待っていたんじゃないでしょうか?」
それを証明するかのように、五郎左衛門の左手にある脇差は砕け散った。
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