第878話 2周目の室矢家ハーレムは観戦中

 二度目です。

 私が、この魔王との決戦を見るのは……。


 1周目では訳があって女子小学生ながら室矢むろや家にハーレム入りした二条にじょうすみれは、ちょこんと正座をしている。


 場所は、室矢家の面々が集まっているリビングだ。

 今にもどちらかが死ぬ果し合いとは無縁の、ごく普通の空間。


 彼女たちは、超空間のネットワークで自由に見られる。


 ここで正座をする必要はないが、誰も指摘しない。


 気を遣った夕花梨ゆかりシリーズが菫用の畳を用意したから、リビングの一角がひな祭りのように――


「勝てるの……でしょうか?」


 自分がポツリと漏らした言葉に、ハッとする菫。

 けれど、1周目で室矢むろや重遠しげとおの妻となった女子たちは動じない。


 その中にいる正妻、南乃みなみの詩央里しおりが、答える。


「私たちは、ずっと甘えてきました……」


 他の女子たちが、詩央里を見る。


 空気が張り詰める中で、彼女はしゃべり続ける。


「若さまが望めば、1周目の私たちの誰もが死ぬか、そのほうがマシな未来になったでしょう! 最終的には、その気になれば日本を滅ぼしてもお釣りがきたのですし」


 反論はない。


「若さまに問題がなかった、とは言いません! ですが、これだけの重圧に耐え続けたうえに、私たちまで救う必要はなかったと思います。多人数プレイまで夕花梨の式神たちがやっていた以上、若さまにとって『Hできるから』はメリットに入りません」


「……そうだね」


 肯定したのは、誰だろう?


 菫は、ふわふわした気分で、ぼんやりと思った。


 いっぽう、詩央里は宣言する。


「なので、私たちは見守りましょう! 1周目では不可能だった、若さまが本当にやりたかったことを」


 たとえ、その結果として若さまが死に、室矢家を解散することになっても……。


 詩央里は、締めくくった。


 魔王との決戦が始まるまでのわずかな時間に、ハーレムメンバーが自分の考えを口にする。


「2周目は、色々とすっ飛ばしているからねえ……」

「重遠に背負わせすぎたから、2周目は好きにしてくれていいわ」


「カレナがいれば、何とでもなるし……」


「どうせ、死後には外宇宙に旅立つのでー!」


「でもさ? 自分の四大流派で縁談があるだろうから……」


「「「あ……」」」


 想像した女子グループは、うんざりした表情に。


「ありそう……」

「困るわね?」

「死んだら旅立つとはいえ、ちょっとマズい」


 名家の当主で親しい男子がいなくなれば、本来の政略結婚だ。

 悪目立ちしたから、強制されるだろう。


 重遠にとっては、立派なNTRだ。

 それで永遠の旅をするのは、気まずいレベルにあらず。


「私も、直系の後継ぎがいないと財閥の後継者が……」


「仕方あるまい! 重遠が負けて死んだら、お主らも待機しているエルピス号に搭乗して出発するだけじゃ! 家族や友人に別れを告げるのは構わんが、そこで渋るようなら置いていくだけの話」


 理由は、そのまま自分の所属に取り込まれるから。


 中高生にあり得ない、最低でも戦術レベルの力を見せつければ、尚更だ。

 そして、旧室矢家に同等の女子がいたと知れば――


「囲い込もうとするだろうな? 他の四大流派の内情や、取っ掛かりを作るチャンスだ」


 室矢カレナの指摘に、再びため息をつく女子たち。


「お母様には、納得してもらうしかありませんね……」


「私のほうは、家族が五月蠅いだろうけど」

「……娘がいきなり今生の別れと言えば、普通はそうよ?」


 他にも、自分の中で折り合いをつけているようだ。


「四大流派をことごとく滅ぼし、ついでに日本の警察や防衛軍を殲滅するよりは、穏便な方法だと思うわよ? エルピス号を知れば、世界中がそれを求めるのだし」


 菫と一緒に畳の上で座っている千陣せんじん夕花梨ゆかりの発言で、場の空気が変わった。


 それだけの価値があるのが、室矢家だ。

 異能としても、政治的なポジションとしても。


 各国の諜報部はそういった秘密をかぎつける程度には有能だから、たちが悪い。

 あらゆる手段で取り込むか奪おうとして、パンドラの箱を開けるだけ。


 女子たちは、夕花梨に同意する。


「だよね?」

「情に流されれば、国が滅びますか」

「おまけに、自分もエルピス号に乗り損ねる!」


「先に言っておくが、エルピス号のミーティア女学園も独自に動くぞ? あやつらが約15mの巨大ロボットである決戦兵器ヘーロースを出せば、1機だけで日本を更地にできる! いや、世界中を」


 カレナの突っ込みに、ぐったりする面々。


「そっちもあったか……」

「機密保持や彼女たちの感情を考えたら、やりかねない」

「1周目と違って、あそこの生徒会メンバーはもう重遠の女だったわね?」


 女子高生が好きな男子を殺されれば、報復に動くだろう。

 その力もある。


「あ! そろそろだよ?」


 最初から知っていた結論を再確認したハーレムメンバーは、いよいよ始まる決闘に集中する。


「これが本当の、最終決戦ね……」


 菫と向き合うように座り、茶道にのっとった動きでお茶を飲んだ夕花梨は、緊張した声を出した。


 ごくりと唾を呑み込んだ菫も、自分の夫となる男子を超空間のネットワーク越しに見る。

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