第874話 臨時の当主会で十家の当主を見下ろす

 女子高生の隊長、八天やてん仁奈にな

 彼女を縛り上げたまま、地面に転がっている。

 自分で左右に揺れながらギャーギャーと喚いており、楽しそうだ。


 エロゲのイベント回収になりそうな場面。


 放置すれば、遠巻きに見ている八天隊が回収するだろう。


「さて……」


 据え膳になっている千陣せんじん夕花梨ゆかりは、臨時の当主会と言ったな?


 俺は片手に出現させた、左右に刃がある銀のダガーを握る。


「ちょうどいいか!」



 ――千陣家の大広間


 宴会ができそうな広さ。


 殿様が謁見する場と言えば、分かりやすいだろうか?


 臨時の当主会として、千陣流を動かしている十家の当主が並んで座っている。

 二列で向かい合う、最上位の老人会だ。


 上座にいる宗家の千陣ゆうは、険しい顔。

 見覚えのある面々も、隅にいる。


 乱入した俺は、立ったまま。

 千陣夕花梨の後ろから、首にダガーを突きつけている。

 護衛の妖怪、精鋭の退魔師は、俺の進路から退くしかない状況。


 周りは、女子中学生のような夕花梨シリーズが固めている。


 ここで、懐かしい声。


「てめぇええっ! よくも土足で――」

「お前が黙れや……」


 左腕ブランブランの一敷いっしき源隆げんりゅうの叫びに、1人のジジイが突っ込んだ。


 冷や汗を流した源隆は、そちらを見る。


「しかし、親父――」

「鹿もイノシシもあるかよ! ったく、俺の顔に泥を塗りやがって……」


斯波しば家のご当主とお見受けしますが?」


 俺の問いかけに、じろりと見る斯波大和やまと


「だったら?」


「こいつ、途中で逃げたんで! 仕留めてから話し合いをしたいんですが?」


 ツボに嵌まったらしく、笑い出した大和。


 けれど、あっさり同意する。


「ああ、いいぜ! ちょうど処分に困っていたんだ」


 予想外の返事に、唖然とする一同。


 大和を見たまま、夕花梨の首筋から外したリジェクト・ブレードの剣先をつまみ、スナップで投げた。


「ぐわっ!」


 もはや、案山子かかしだ。


 源隆に刺さったダガーを消し、夕花梨の背中をそっと押した。

 その勢いで、彼女が式神に囲まれつつ、離れていく。


 和装のまま立派な畳の上で草鞋わらじを滑らせ、奴のほうを見た。


 奴は激痛に耐えつつ、自分を奮い立たせる。


「やってやろうじゃねえええかああア゛ア゛ア゛ァァッ!」


 残った霊力を振り絞るも、俺の電撃に包まれることで青白い松明となった。


 吐きそうになる臭いと同時に、炭化した奴がドサリと倒れる。


(1周目と同じく、隙だらけだったな……)


 叫んでいる暇があったら、攻撃しろ。という話だ。


 完全解放をやめた俺は、右手に出現した刀をゆっくりとさやに納めた。


 位置を直し、両手を離した時点で、座ったままの大和が声をかける。


「ほー? 見事なもんだ……。でかい態度をとるだけのことはある。で?」


「見ての通り、俺には隊長と同じ力があります。魔王退治、任せてみませんか?」


 当主会の空気が、一気に張り詰めた。


 座り直した大和は、鋭い目つき。


「てめえ……。どこまで知ってる?」


「答えてもいいですが、それに何の意味が?」


 両腕を組んだ大和は、やがて目を逸らした。


「そうだな……。具体的に言ってみろ? お前の考えを聞いてから、どうするかを決めよう! 建前とはいえ、俺たち十家より上の室矢むろや家のご当主だ。ここで発言しても、おかしくない」


 遺言ぐらい聞いてやる、という雰囲気。


「ありがとうございます……。とはいえ、魔王の山本さんもと五郎左衛門ごろうざえもんを倒す、それだけの話」


 息を吐いた大和は、プレッシャーをかけるのを止めた。


「くだらん命乞いをしないのは、見上げたものだが……。まさか、室矢家の代々の家訓として、いずれ果たすとは言わんよな?」


「当主会で決めていただければ、片づけます。半年後までには」


 それを聞いた面々が、好き勝手に騒ぎ出す。

 控えめに言っても、好意的ではない。


 けれど、話している大和は、面白そうな表情だ。


「半年後! 面白い奴だな? 炭化した馬鹿じゃなく、お前を隊長に推薦しておけば良かった」

「斯波殿どの!?」


 他の当主が、慌てたようにとがめた。


 そちらを見た大和は、説明する。


「別に、こいつの肩を持ったわけじゃねーよ! 俺たちにしても、渡りに船だろ? 先代の敵討ちをいつまで引きずるんだ?」


「う、ううむ……」


 咎めた当主が、黙り込んだ。


 いっぽう、大和は理を説く。


「今のこいつは、千陣流の敵だ! けど、一敷のバカは手も足も出ず、この有様……。ウチが認めるぐらいには強かったんだぞ? こいつが魔王と戦うのなら、任せればいいだろ! これ以上の隊長の損失は、他の四大流派に付け込まれる」


 当主の誰かが、反論する。


「しかし! これだけの反逆をしておいて!!」


 ところが、思わぬ人物が口をはさむ。


「させてみればいい……」


弓岐ゆぎ殿!?」

「なぜ?」


 いつもより力がない弓岐有宗ありむねは、ポツリと言う。


「こやつの最後の情けだろう……。その気になれば、さっきのようにワシらを一瞬で殺せる。そうでなくても、この場から逃げ延び、他の四大流派のどこか、あるいは海外へ亡命することも可能だ」

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