第872話 死にボルト

 御神刀である雷火らいかを完全解放。


久遠くおん万雷ばんらい……」


 俺を中心に霊圧が吹き荒れ、紫色にスパークする刀が消えた。


 ゴロツキにしか見えない一敷いっしき源隆げんりゅうは、無意識に後ずさりつつも、肩にのせていた獲物を手にする。

 

 両手で握って使う、長柄ながえの武器だ。

 同じく巨大な刃がついており、日本の刀というよりも、大陸風。


 俺の視線を感じたのか、源隆は自分の身長ほどもある武器をヒュンッと振った。


「どうだ? これが、隊長たる俺の武器! 千刃丸せんじんまるだ!!」


 俺は、思わず跳ね上がった肩をゆっくり下げた。


 その動揺を感じ取ったのか、源隆はニヤリと笑う。


「ビビったか? 無理もねえ……。しかも! こいつは強くなる!!」


 両手で握った柄。


やいばを研げ! 千刃丸!!」


 薙刀なぎなたの刃を大きくしたような武器で、その霊圧が跳ね上がる。


 そして――


 片手でも握れるぐらいに縮んだ柄で、二刀流になった。


「いずれ千陣せんじん流を締める俺の代名詞で死ぬことを誇りに思え!」


 …………


 ああ、千陣(重遠しげとお)。


 分かっている。


 分かっているさ……。


 俺は、両手をガラクタで埋めている源隆に向き直った。


「お前は、俺の本当のスタイルを知っているか?」


「あ゛あ゛? 知るわけねえだろ!?」


 呆れたように言い返した源隆。


 それに対して、独白する。


「俺のスタイルは、剛拳ごうけんだ……。霊力ゼロへの対処で、必然的に柔拳。それも、カウンター寄りになったがな?」


「知るかよ! テメーの話なんぞ、誰も興味ないぜ!!」


 構わずに、語り続ける。


「今の俺にとって、お前は紙よりも薄い……。お前のガラクタはよく光るオモチャだな? 今度、売っていた店を教えてくれ」


 御神刀を持つ俺から見れば、2つに分裂するだけのオモチャなんぞ、取るに足らない。


 その時に、俺の後ろで3つの影が飛び上がった。


「死ねやぁああっ!」

「そろそろ、黙れ!」

「隊長が出るまでもねぇええっ!」


 全員の目玉が中から弾け、開いた口から電撃のような青白い光を放った。

 着ている服は引き裂かれたように千切れ飛び、全身の肌も黒焦げだ。


 全身から煙を出しつつ、3つの死体は力なく地面に落下する。


 俺の後ろで、手羽先を食べる時のような音、つまり骨が折れる音が響いた。


 バカのように半開きの口だった源隆は、震える声で叫ぶ。


「ぜ、全員でやれ! こいつは1人だ!!」


 その宣言で、遠巻きに囲んでいた一敷隊の連中が襲いかかってきた。


 しかし、どいつも力なく立ち止まり、地面に両膝をついた後で、その場に倒れ伏す。


 見回した源隆は、震える声で叱咤する。


「て、てめえら……。ふざけてるんじゃねえぞ!?」


「電気に色はない」


 俺の言葉に、源隆は怯えた表情で向き直った。


 いっぽう、俺は説明を続ける。


「雷に色があるのは、そのプラズマで一時的に太陽の表面温度を超えるほどの高温になることでの空気の変化だ」


 もはや、言葉もない源隆。


 俺は、険しい表情のまま。


「お前は想像するべきだった……。先ほどの完全解放に、雷という文字が入っていたことを」


 前に足を踏み出せば、その分だけ源隆は下がる。


「知っているか? 人は電気をよく通すと……。そもそも、人間の脳から発せられる信号も電気のようだが」


 話が脱線したことから、本題に戻る。


「感電で、人は死ぬ! その基準となっているのが、42ボルト。低圧でも、中で焼かれればな?」


 前へ進む。


「雷の瞬間的なエネルギーは、1億Vと言われている……。有象無象の貴様らの中を焼き尽くすには十分すぎるだろう?」


 歯をガチガチと言わせ始めた源隆。


 足を止めた俺が、最後に教えてやる。


「完全解放の久遠万雷とは、その雷を自在に操る……。いくらでも、何度でも!」


 1周目とは違い、今の俺は剣士ではない。


 バカ正直に刃を交わしてやる必要はないし、その義理もない。


 拳を握りしめた俺は、まさに雷の加速で正面から右ストレートを叩きこむ。


 片方の武器が、粉々に砕けた。


 左ではなく、戻した右で残った1つも砕く。


 瞬間的に元の位置へ戻り、両手が軽くなったことに気づいた源隆を見る。


「なっ!?」


 驚愕した源隆は、それでも足掻く。


「お、落ち着け! 俺が当主会に取り成して――」

 

 手を振った。


「ぎゃああああああっ!」


 源隆の左腕がダランと下がった。


 もはや、二度と動かすことはできないだろう。


「避けられるものなら、避けるといい! 秒速30万kmより速く動けるのならな?」


 涙と鼻水を垂れ流した源隆は、後ろへ叫ぶ。


「おい!!」


 すると、奴の手下の数人が、1人の女子を連れてくる。


 千陣夕花梨ゆかりだ。


 首筋に、ナイフが突きつけられている。


 源隆は、乾いた笑い。


「ハ、ハハハハ! どうだ!? これなら、手は出せないだろ?」


 俺が夕花梨を見ていると、源隆は得意げに続ける。


「分かったら、とっとと自害しやがれ! その電撃でな?」


「正気か、お前? 夕花梨にこんな真似をして、千陣流が黙っているわけないぞ?」


「ハッ! テメーが殺したことになるから、心配すんな!」


 …………


 つくづく、面白い奴だ……。

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