第864話 「俺はTKGを食べたかっただけ」ー④

 リョータの遺書は、まだ続く。


“まともな食い物は、畜産エリアだろう。そこから先へ戻っても、食料があるとは思えない”


「事実だが、そのエリアを1人で突破する自信がなかったのだろう」


 俺の独白に、佐伯さえき緋奈ひなの補足。


「うん……。今までの記録から、リョータは戦闘が苦手のようだから」


 武装した『ドールズ』も、てこずった。

 草食の牛ですら、あの巨体で突進されれば、車の衝突と変わらん。


 俺は両手でデータパッドを持ったまま、歩く。


「まして、爆発するわけだし」


「だよね……」


 同意した緋奈は、周りを見た。


 暴れていた家畜の死骸が転がり、凄まじい光景と臭いだ。


「早く掃除しないと……」


「ああ! このままじゃ、どんな疫病になるやら」


 しかし、『ドールズ』はデータ収集に入っており、人数も限られている。


 ヘッドセットのマイクに手を当てた。


「聞こえるか?」


 ザッ

『……はい、司令室のアクィラです』


「畜産エリアだが、ここの清掃は可能か?」


 耳に当たっているイヤーキャップの先で、悩む気配。


『急ぎですか?』


「いや、今後のスケジュールとしての相談だ」


『今の人員では、司令室のチェックを優先したいです。そちらの様子は?』


 俺は、ぐるりと見た。


「見た限りでは、脅威なし! 例のリョータらしき骸骨を発見した。図面でマークしておく」


『了解! やはり、死んでいましたか……。アウト』


 通信が切れた。


 リョータの記録に、目を落とす。


“畜産エリアは、戦争中のようだ。家畜が暴れまくり、どんどん爆発している。死体はあるものの、食っていいのだろうか?”


「爆発した動物だからなあ……」


「さすがのリョータ君も、二の足を踏んだね?」


“ここの従業員が使っていたらしき宿舎などで、米を手に入れた! バッテリーか知らんが、炊飯器も動く!”


「最後の晩餐が、ただの白米」


「せめて、フリカケが欲しいよ……」


“そもそも、どうして爆発する? リア充だから?”


 ニマーッとした緋奈が、頬を赤くしたまま、言う。


「じゃあ、私たちも爆発しないと♪ 重遠しげとおも、一部が爆発して終わるけどね? 次は、どの制服にしようか?」


 ザッ

『アクィラです! マイクを切ってから、お願いします! アウト』


 …………


 気まずい空気が流れたものの、歩き続ける。


“料理するにしても、これじゃ……。調味料がいくつかで、俺は方法を知らない”


 それを読んだ緋奈が、声を上げる。


「あらら?」


「爆発する家畜たちに、本人は料理をできないか……。レトルト、缶詰しかない」


 自分の意見を述べた俺は、先を読む。


“これで死ぬんだ。俺は諦めない! そもそも、家畜の解体はできないから……。やっぱ、爆散した死体を食うか?”


鶏舎けいしゃか……。ここなら、ひょっとして!”


「ヒヨコか、卵を狙ったのかな?」


「だろうな」


 俺たちも、それらしき空間へ足を踏み入れた。


 通路をはさみ、左右にケージがある。

 三段ぐらいの集合住宅で、通路のところには餌や水があるパイプの下半分。


“卵だ! これで、何とか食事になる!”


 緋奈が、思わず叫ぶ。


「良かったね!」


「……まあ、そうなんだろう」


 俺たちは、司令室へ戻り始めた。


 リョータの記録は、残りわずか。


“卵かけご飯! これが、俺の最後の食事だ……。ハハ、豪勢じゃないか! 壁を食っている非常食よりは美味いぞ”


 ところが、次の音声ログで雰囲気が変わった。


“ああ……。やられたよ……。もう、意識が遠くなってきた……。まさか……”


 ――腹の中で生卵が爆発するとはな


“医者じゃなくても、俺が助からんと理解できたわ……”


 その後は、うわ言のような呟きだけ。


 データパッドで、音声ログを閉じた。


 先住民の最後、リョータ。


 死因、TKGによる爆発。



 ――司令室


 戻った俺は、ふと気になる。


“我々ドゥルキス人を復活させてくれ”


 そんな記録があったな?


 『ドールズ』の小隊長アクィラとも相談して、試してみることに……。


 ピッピッピッ


 AIによる最終確認。


『ドゥルキス人を目覚めさせますか?』


「実行してくれ」


『スリープ装置のシーケンスを実行……。リスト確認中』


 モニターで、人物名のリストが流れていく。


 しばらく、待つようだ。


 後から思えば、この時にリストを見ておけば……。



「ドゥルキス人らしき集団が、こちらへ向かっています!」


 オペレーターの報告に、アクィラがこちらを見た。


「俺が対処する! 武装は?」


「……確認できません」


 いざとなれば、リジェクト・ブレードで何とかしよう。


 『ドールズ』の面々が、自分の武器をチェックする。


 一部は、重火器をスタンバイ。



 バシュッ!


 ついに、司令室のドアが開かれて――


 可愛らしい女子の声。


「司令官!」


 あ、ヤバい。


 これ、嫌な予感がする。


「司令官さん!」

「司令!」

「しれー!」

「しねー!」


 最後の1人、死ねと言っていない?


 司令室の手前にいたのは、色々なタイプの女子ばかり。


 しかも、目覚めて飛んできたのか、目のやり場に困る格好。


 目をキラキラさせたまま、俺を見ている。


「えっと……。また眠ってもらうことは無理?」


 司令官と呼ぶのに、その命令は拒否された。



 室矢家のハーレムに、ドゥルキス人100人が加わった!


 エルピス号の居住ブロックを任せた。

 これで、人手は足りたが……。


 カペラを管理者として、超空間データリンクの部分的なアクセスを許可。

 俺のアーカイブや生配信で、サブスクにしている。


 かなり好評だが、俺のプライバシーは無事に消滅した。


 いつでも、どこでも、ドゥルキス人の美少女、美女たちに見守られる生活だ。


 どうして、こうなった……。

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