第863話 「俺はTKGを食べたかっただけ」ー③

 逆手に握った銀のダガーが、風のように通りすぎたアンドロイドを切り裂いた。


 短い剣身の延長線上で、軽量ながらも頑丈そうなフレームを寸断する。


 1体、2体……。


 3体!


 加速した高速鉄道のようなスピードのため、そのまま通路の先へ吹っ飛んでいき、ガシャンと派手な音を立てつつ、火花を散らす。


 それを見ていた『ドールズ』の部隊は、唖然とした。


「えっ!?」


 誰かが漏らした声が、その状況を示している。


 俺は、左右にリジェクト・ブレードを逆手のままで、振り向く。


「スピードに特化した、暗殺タイプだ! こいつらがいたせいで、あのリョータとドゥルキス人の女が司令室にたどり着けなかった!」


 仮にも、四大流派の1つ、操備そうび流の精鋭が、全く反応できなかった。


 玩具のようなフレームだけ。

 しかし、速い!

 ブレードによって、すれ違いざまに切り裂く。


 重装甲の戦闘アンドロイド、タンクに交じって、こいつがいたんだ……。


 小隊長のアクィラは、唇をかんだ。


「少し、舐めていましたね……」


「初見だからな? 司令室まで、最終防衛ラインになっているのだろう」


 ここからは、俺が先行する。


 そう付け加えて、二振りのリジェクト・ブレードを順手に持ち替えつつ、弾丸のように前へ進み――


拒絶する刃リジェクト・ブレード


 完全解放をしての振り抜きは、壁のように立ちはだかっている多脚戦車の砲撃、レーザーごと、一瞬で分解した。


 足を止めずに、先ほどの暗殺アンドロイドを含めて、ボスラッシュのような敵をことごとく消していく。


 逃げ場はないさ、お互いにな?



 ――司令室


 俺が手を触れたら、左右に開いた。


 アクィラが、指揮官として命じる。


「Go!(突入!)」


 小銃などを構えた『ドールズ』が、それぞれの範囲をカバーしつつ、展開。


「クリア!」

「クリア!」


「……クリア!」


 俺たちが入れば、まさにSFのブリッジだった。


 セーフティをかけた武器をしまい、技術班が動き出す。


「端末へのアクセスを――」


「映像の記録は?」


 佐伯さえき緋奈ひなが、俺を見た。


重遠しげとお! 司令官用のコンソールだよ。試してみて」


 全員の注目を集めたまま、俺はそこに立ち、手を当てた。


 ヒィイイイン


 各モニターに表示が出て、俺がいるコンソールには、スマホのような許可らしき表示。


『ようこそ、司令官! あなたの着任を歓迎します』


「一時的に、全ての権限を許可する」


『……ジェネレーター、スリープシステム、その他をオールフリーに設定』


 AIらしき返答に、その場にいた全員が息を吐いた。


 各端末の女たちが、忙しく動き出す。


「防衛システムの全停止」

「畜産エリアはいったん駆逐するように再設定します!」

「警備システムの記録は、こっちに回して!」

「居住ブロックについては、どこで?」


 俺は司令官のシートに座り、気になっていたことを知る。


「緋奈、行くぞ! リョータに会いに行こう」


「うん……」



 ――畜産エリア


 静かになった場所では、倒れている家畜が目立つ。


 それらを踏み越えつつ、とある個室へ。


 人間と同じような骸骨が倒れていた……。


 息を吐いた緋奈が、目を逸らしたまま、呟く。


「この子が、リョータ君か」


「そうだな」


 落ちていたデータパッドを拾い、べったりとついた汚れを落とす。


 幸いにも、防水機能が活きていた。


“俺たちは、司令室があるエリアまで辿り着いた。でも、ダメだった……。あの異常なまでの速さのアンドロイドに襲われて、俺をかばったドゥルキス人が負傷した”


“ああ、ちくしょう! 最後の最後で……”


“彼女がどれぐらいの深手を負ったのか、俺には分からない。司令室のエリアは、一定まで近づかない限り、逆に安全だ。個室に入れたドゥルキス人は、「戻ってくるまで外に出ないように! 食料を探してきます」とだけ言った”


“帰ってこない……。あいつが俺を見捨てるとは思えないから、そういう事なのだろう”


“もらった非常食が底をつく。いずれにせよ、自分で探すしかないだろう”


“戻るしかない”


 そこまで見た緋奈は、骸骨を見た。


「ドゥルキス人はこの畜産エリアが手に負えないと判断して、もっと先のエリアまで戻った」


「外周に近い住宅エリアで探したものの、負傷によって力尽きたか、何かに襲われて死亡したと」


 俺が続けたら、緋奈はこちらを見たまま、頷いた。


「どうすれば、良かったんだろうね?」


「ドゥルキス人は最善を尽くした……。データパッドで遺言を残したし、それ以上はどうにもならんよ」


 腕を組んだ緋奈は、これからの長い旅に思いをはせる。


「私たちは、気をつけないとね……」


「リョータも、よく頑張った……。ん?」


 まだ、続きがある。


 俺の呟きに、緋奈も覗き込んできた。


“ここのところ、料理の夢ばかり見る。非常食はすぐに食いすぎないよう、わざとマズい味にしているらしいが……。わりと限界だった”


「けっこう、余裕があるね?」


「もう、オチが見えてきたけどな……」


“俺は、もう助からないだろう。ドゥルキス人がいなくなって、話し相手もいない。録音データのラジオ異星言語を聞き、1人で喋っている”


“死刑囚だって、最後は希望したものを食えたと言うし、俺もそれにならう”

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