第862話 「俺はTKGを食べたかっただけ」ー②

 エルピス号の外周から、中心軸のほうを目指す。


 女だけの部隊『ドールズ』が先行して、そのパワードスーツや重火器で薙ぎ払う。

 アクィラが、小隊長だ。

 

 警備ロボや罠は、まだ生きているようだ。

 後ろでも、振動や音がある。


 別の電源があり、モスボールのような長期保存か?

 もしくは、宇宙規模で使える機材は、こういうこと?


「何にせよ、すげーな? これがSFの世界か……」


 隣を歩く佐伯さえき緋奈ひなも、肩をすくめた。


「アハハ! メンテナンスフリーだね」


 どちらもタブレットのような端末を持ち、それぞれに集まったデータを読む。


 むろん、歩きながら。


「ラストサバイバーの男子中学生リョータは、戦闘向けのドゥルキス人と一緒に先行した形……。ただし、アクィラが言うには『数百年前ぐらい』か」


「接触するとしたら、『ドールズ』が先だよ? そのリョータたちの脅威は、ひとまず考える必要はない」


 緋奈の指摘に、同意する。


「そうだな……。おっと! ここが、水耕栽培の農業プラントか?」


 現代でも馴染みがある、下に流れる水があり、野菜を栽培できる施設。


 上から白い光が降り注ぎ、太陽光を模している淡い光が栽培するスペースに。


 ただし、稼働しているのは一部で、それ以外は腐った水の臭いを漂わせつつ、暗い。


 興味深げに見た緋奈は、感想を述べる。


「規模が大きいね……。状態もいい! 一から作るのと比べたら、圧倒的に楽だよ!」


「徹底的にクリーニングしないと、全滅しかねないけどな?」



 ――外周に近い住宅エリア


 いかにも宇宙船のような通路に、学生寮のように個室が並ぶ。


 通りすぎつつ、クリアリングで開きっぱなしの出入口から、室内を覗いていく。


「ここに住んでいたのは、低ランクか?」


「うん! 隣との間隔が狭いし、炭鉱夫とまでは言わないけど、危険な作業をしていた人々だろうね」


 即席だが、自動翻訳によって、人類とほぼ同じ思考であると分かった。


 目先の娯楽を好んでいたようで、お世辞にも教養があるとは思えない記録ばかり。


“数式が常に正しいのは、宇宙の真理だからで――”


 どうやら、宗教的な思想もあったようだ。


 ピピピ!


『アクィラです! 戦闘により死亡したと思しき人型、1つ! リョータとドゥルキス人のどちらかと推測されるので、室矢むろやさまと佐伯さまにお願いします』


「分かった! すぐに行く!」



 そこにあったのは、壁にもたれたまま力尽きた、座り込んだ人影。


 近くに、小銃のような武器が転がっている。


 ボディ―アーマーを着込んでいるが、被弾によりボロボロ。


 眠るようにうつむいているが――


「女……だよな?」


「骨格と顔は、そうだね」


 絶命しているのは、『ドールズ』が確認済み。


 その場で、推理する。


「本人が言うには、リョータは戦えない……。なら、消去法でこいつがドゥルキス人か?」


「たぶん……。時間が経っているわりに綺麗な顔だ! 周りの状態から察するに激しい戦いだったと思うけど、今は眠っているように見える。アンドロイドかな?」


 緋奈が長考に入ったので、俺は『ドールズ』から受け取ったデータパッドを見る。


 理屈は不明だが、俺が触ったらロックが解除されたか、あるいは、起動したのだ。


“最後のマスターを守り切れなかった……。リョータ1人で、中央の司令室にたどり着けるだろうか? 私以外にドゥルキス人がいれば、護衛できたろうに”


 文面から、やはり女のようだ。


“彼はしきりに、『もっと美味いものを食いたい』と言っていた。けれど、今の状態では密封されていた非常食だけ。それ以外を口にすれば、食中毒などで命に関わるだろう”


“この記録を見た方に、お願いする。居住ブロックの設備を再稼働させて、我々ドゥルキス人を復活させてくれ……。リョータをこの居住ブロックの司令室に連れていけば、その権限で実行できる”


 俺は、壁にもたれた状態で座っている女の目を閉じさせた。


「行くぞ! リョータは死んだろうが、司令室は復旧させる」


「う、うん……」



 ――畜産エリア


『ブモオォオオッ!』


 俺たちの目の前で、暴れていた牛が爆発した。


 …………


 文字通りに、内部から破裂したのだ。


「何が起きている!?」


 フォーメーションを組んだままで撃っている、『ドールズ』たち。


 その後ろにいる指揮官のアクィラが、答える。


「不明です! ただ、成長促進のチップなどの不具合らしく! このエリアの動植物は、全て検閲しなければいけません!」


 マジかよ……。


 呆れたように、緋奈が呟く。


「本来よりも早いサイクルにしたんじゃない? 無理が出て、耐えきれない骨格や内臓が爆発する感じで……。技術的には、興味深いけどね」


 俺は、アクィラに尋ねる。


「どうだ? 全滅が難しいのなら、突破したいが……」


 悩んだアクィラは、頷いた。


「はい! これは、突破したほうがいいですね……。司令室で操作すれば、ここも停止できそうですし」


 その後で、付け加える。


「えっと……。その辺にある物を食べないでくださいね?」


「俺を何だと思っているの?」

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