第861話 「俺はTKGを食べたかっただけ」ー①
エルピス号の外周に近いエリアで警備室に行けば、そのモニターの1つに、コールドスリープのようなカプセルが並ぶ部屋。
その画像に、小銃などを構えている『ドールズ』の姿。
小隊長を務めている女、アクィラが、画面上でこちらを見た。
『聞こえますか? ルームクリア! 開いているカプセルも、だいぶ時間が経っています。カプセルを操作するためか、ステータスを表示するモニターは映らず、電気のようなエネルギーが通っていません。電源もつかず』
「他のカプセルは?」
『生命反応なし! 高い確率で、死亡しています……。残された資料によれば、我々と似た外見です。言語の解析はひとまず完了しましたが、誤訳の可能性があります』
「構わない。クリティカルな部分は、こちらのソースで改めて確認する」
『了解! では、報告します。……リョータという男が目覚めて、この居住ブロックの司令室へ向かったようです』
「続けて」
『リョータは男で、年齢は中学生……という推測です。部屋にそれらしき死体や痕跡はなく、別のエリアへ向かったようですね? それから、ドゥルキス人と呼ばれているガードがいるようです! こちらも人型で、分かっている限り、我々と酷似した外見と思われます。……申し訳ありません。ほぼ全ての情報が推測で』
「仕方ない。今は、そのリョータを追跡しよう! 罠の可能性も考慮しつつ……。君に情報を一元化しつつも、リョータについての記録、たとえば日記をこちらへ! 同じ男子だから、俺のほうが気づくだろう。以後は、君に指揮を任せる。状況は、なるべくリアルタイムで端末に」
『了解しました! 正直なところ、そのほうが助かります』
隣に立っている
「佐伯だよ! 私は、そのドゥルキス人が気になる……。
『はい、そのように! このエリアは最低限のチェックをしたので、中枢のコントロールルーム、あるいは司令室を目指したいのですが?』
俺が、答える。
「許可する! リョータとドゥルキス人について、どう思う?」
『率直に申し上げれば、すぐに排除しておきたいですね! むろん、情報を得た後にですが……。しかし、我々と同じ寿命、身体能力と仮定した場合、たぶん生きていませんよ?』
「そうか?」
『ええ。積もっている
「ああ、なるほど……。次の目的地は?」
『……中心軸のほうへ進み、作業用アンドロイドや警備ロボの製造プラントです』
「そこを抜けたら?」
『水耕栽培の農業プラント、住宅エリア、畜産エリアと、まだまだあります。コロニーの形状に近いため、中心軸にある司令室をぐるりと囲むように配置されている状況です』
「データと今の説明を聞く限り、重要な区画を守るように軍事エリアがある感じか」
『はい……。今いるエリアでは巨大な兵器、設備を作っていて、そのまま宇宙へ出しての運用や廃棄をしていたようです。注意するべきは司令室を守るようにある、戦闘用アンドロイドの生産プラント』
「ヤバいの?」
『危険です! 我々とほぼ同じサイズで、内蔵された武器を使い、瞬く間に敵を倒すそうです。レーザー兵器も使うとか。……例のリョータに頼った情報ですが』
「そいつも、司令室を狙っていたのか?」
『はい。ドゥルキス人の1名と共に、そこを目指したようです』
データパッドに、その情報が表示された。
“俺が、ラストかよ……。目覚めさせたドゥルキス人と一緒に、この居住ブロックの権限がある司令室を目指す。ブリッジと言うべきかもしれんけど”
“頭がボーッとするけど、何で眠っていたんだっけ? まあ、いいや! ドゥルキス人が言うには、俺しか権限を持っている人間がおらず、この居住ブロックの諸々が使えないんだとさ”
“そのドゥルキス人に聞いたら、こいつの仲間は100人いるけど、復活させるためには俺の認証が必要……。こいつだけで、危険なフロアーを突破し続けるんかい!?”
“ドゥルキス人から受けとるメシが、俺の命綱! 俺以外の奴らは、暴走した警備システムにやられたか、内輪揉めで全滅したそうだ。一緒にいるドゥルキス人を問い詰めたら、私たちはやっていない、と泣かれた。正直、すまん”
“戦闘に強いだけあって、ドゥルキス人の射撃スキルや反応はすごい! だけど、下へ向かうほど、強力な兵器や敵がいるはず。本当に、大丈夫だろうか?”
“俺の名前は、リョータだ。このログを見る奴がいるかは知らんが、声に出していないと狂いそうでね? 悪いが、俺がくたばるまで付き合って……ハイハイ、俺は死なないから! ドゥルキス人は、俺たちと違う種族らしい。エネルギー不足だったか、そんな理由で凍結したっぽい。俺と一緒にいる奴は、警備で動いていた貴重な個体だ”
“今は、司令室がほぼ全てを封じたまま……。誰かがクーデターを起こしたか、発狂して司令室に立て籠もり、他を道連れにしたんじゃねえの? 大迷惑だな、俺を含めて”
“どっちみち、外周エリアに食い物はない! 壁みたいな非常食をかじっていても、ジリ貧だ。前で警戒しているドゥルキス人がいなくなれば、打つ手なし! だから、司令室にたどり着き、居住ブロックを開放するしかない”
一緒に読んでいた緋奈は、暗い顔だ。
「途中で力尽きたか、司令室に入っても権限を行使できなかったようだね?」
「ああ……。少なくとも、この外周エリアは封鎖されたままだ」
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