第860話 ここで考えるだけ時間のムダだ

「俺たちのホームとなる場所だ! しかし、何があってもおかしくない。各員、注意を怠るなよ?」


「うん、分かった!」


「「「ハッ!」」」


 俺の発言に、集まっている女たちが返事。


 ここは、エルピス号の居住ブロックの1つ。


 周囲はSFアニメでよく見る、メタリックな通路だ。


 小型のコロニーとも言える、恒星間のスペースシップ。

 一部であっても、その表面積はUSFAユーエスエフエーの州にも匹敵するだろう。


 俺の前にいるのは、操備そうび流のメンバー。


 原作【花月怪奇譚かげつかいきたん】のヒロインである佐伯さえき緋奈ひなは、もう2周目。


 マスクド・レディ(仮面の淑女)の私兵である『ドールズ』も……。


 彼女たちは、全員が簡易的なパワードスーツだ。

 そう簡単に着脱できないものの、宇宙へ放り出されても生存可能。


 異能者であるメリットを活かしたパワーで、重火器を扱う。


「ここは、俺たちと同じヒューマノイドの知的生命体が暮らしていた跡地だ……。技術レベルは高く、そのまま転用できれば、短期間での恒星間航行の準備となる」


 俺の説明に、データパッドで構造を見ていた緋奈が応じる。


「んー? 確かに、ほぼ人類と言っていいけどさ……。こちらが制御できる技術とは限らないし、これだけの閉鎖空間で循環させれば、その影響を計算し尽くすのは難しいと思う! いざ乗船してからバイオハザードや重大事故では、全滅するよ? 超空間に移住する私たちは、ともかく」


 『ドールズ』の女たちも、同意する視線だ。


 それを感じつつ、答える。


「最善は尽くす! だが、完璧は無理だろう……。そもそも、エルピス号ですら、何がいるか不明だ。まして、外宇宙となれば」


 息を吐いた緋奈は、うなずいた。


「ま、そうだねー! ミーティア女学園も放置しているし、こちらで考えても仕方ないか……。私たちの寿命まで100年もなく、場合によっては数年後に発進するわけだ。最低でも、この居住ブロックを一通り見て、必要な計画の立案と、管理者権限の入手まではやっておかないと」


 ここで、『ドールズ』の1人が質問する。


「マスクド・レディ(仮面の淑女)様に言われていますので、室矢むろやさまが指揮を執るのは構いませんが……。そのミーティア女学園については、納得できません」


 俺は、先をうながす。


「と言うと?」


「指揮系統が2つあることは、いざという時に混乱を招き、ムダな犠牲を出すだけです! 我々に一本化するべきでは? 聞けば、ミーティア女学園は母船の管理をしておらず、その分まで我々がやらされています」


 要するに、俺が併合して、その上に立てと……。


「一理あるが、このエルピス号は彼女たちの物だ! 俺たちは間借りするだけで、その対価としての居住ブロックの掃除……。もっと言えば、俺にその気はない! 理由は、長年の旅をしてきた彼女たちの協力なしでは、この宇宙船を航行させられないからだ。それに、お前が言ったような反乱は、過去に何度も経験しているだろう。間違いなく、備えがある」


 とがめるように指摘した女は、腕を組んで、考え込む。


 それを見ながら、説明を続ける。


「ミーティア女学園を信用できないのなら、乗船するべきじゃない! 俺は深入りしすぎたから、彼女たちの旅に付き合うが……。室矢家の中でも最終確認をするつもりだ」


「……分かりました」


 口に出さなくても、同じ意見の『ドールズ』はいるだろう。


 今は人手が必要で、こいつらを納得させなくてもいい。


 2周目となった室矢家のように常人の域を出なければ、この感覚は理解できないだろう。


 注意するべきは、 マスクド・レディだけ……。


 ここで、緋奈が口をはさむ。


「せっかく集まったのだし、このメンバーで探索をしよう! おそらく、警備システムが生きているだろうから、引き返せる範囲でね?」



 ――外周に近いエリア


「ここは、宇宙空間に出られる階層だ! 地上の港と同じで、危険物の保管もしているだろう。注意しつつ、手掛かりを探してくれ! 各分隊長に指揮を任せる」


「「「了解!」」」


 マスクド・レディの趣味か、女だけの歩兵部隊が散っていく。


 俺と佐伯緋奈も、この外周エリアの制御室だか、管理者用のルームを探す。

 警備室は見つけたい。


「カペラは? 彼女の母船でしょ、ここ?」


「お前と2人になりたくてね? 遠慮してもらった……」


「……そ、そう?」


「こいつらに手の内を明かしたくない! その意味もある」


 マスクド・レディの出方によっては、出航後にも敵対するだろう。


 必要がないことは教えない。


 基本だ。


 まあ、本気で隠したいわけではないが……。



 不機嫌になった緋奈をなだめつつ、汚れた通路を進む。


 ピ――ッ!


『室矢さま! このエリアの警備室を占拠! それに伴い、同エリアの設備が明らかになったものの……』

「どうした?」


『先住民の1名と思しきカプセルが開いています! 本人の姿はなく、他のカプセルは稼働していない模様』

「分かった! すぐに行く!」


 グループチャットのように聞いていた緋奈が、心配そうに見てきた。


 俺は笑いながら、警備室のほうへ向かう。


「じゃあ、宇宙人との対面をしようか?」

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