第859話 2周目で意外なポジションに収まった人
古びた生徒手帳の山。
綺麗なローテーブルに積まれたのは、かつて新人の教師だった自分が教えていた女子たちの痕跡だ。
そのローテーブルを挟んで座る女子3人に、かける言葉はない。
目の前にいる女は、他人だから……。
でも、シスターにして、今は校長まで上り詰めた人物にとっては、違う。
ダブルオー事件。
いつもの通学ルートで、地下鉄の車両に乗っていた教え子が一斉に消えた。
彼女たちは、ようやく帰ってきたのだ。
生徒手帳として……。
彼女たちと同じ顔をした、在りし日の女子高生の姿。
正確にはクローンだが、オリジナルが死亡したことや、本人たちが呼び合っていることから、そのまま名乗っている。
ともあれ、利佳たちにしてみれば、気まずい限りだ。
1周目とは異なり、校長の世話にならず、
◇ ◇ ◇
放課後の
その高等部、1-A。
自分の席にいる女子は、男子に気づき、そちらを見た。
予想外だったことで驚くも、すぐに平静を装う。
「……何?」
「仮面の淑女と会いたい。連絡してくれ」
端的に言った
いっぽう、突然のコンタクトに驚いた女子は、ぐっしょりと汗をかきつつ、
けれど、今のリアクションで肯定したも同然と思い、息を吐いた。
座ったままで、重遠を見る。
「なぜ?」
「
お前には伝えない、と告げられ、モブになりきっていた女子は、また息を吐く。
「了解……。約束はできないけど、話してみる」
そこに、陽キャの
「室矢! お前、ベル女の交流会に行ったろ? ウチに転校してきた
「……ごめん。私、よく見ていなかったから」
突き放した女子は、煙のように消えた重遠に触れず、手早く荷物をまとめた。
自分の立場を悪くしないため、社交辞令で別れの言葉。
「じゃ、お先に」
「あ、ああ……」
スクールバッグを肩にかけた女子は、立ち尽くす幸伸に構わず、教室を出ていった。
◇ ◇ ◇
20代半ばで、長い黒髪と、青みがかった紫色の瞳が露わに……。
評議員の1人、マスクド・レディ(仮面の淑女)だ。
相手を突き放す声音ではなく、1周目にキッチンカーで同乗した時の、
「なるほど……。周回しているとは、実に面白いですね? あなたの説明で、おおよその事情は分かりました。四大流派が引きずっている魔王についても、この後で片をつけると?」
「はい。2周目の本番は、そのあとの海外留学ですが……」
後ろのソファにもたれた『かぐや』は、俺を見た。
「別の世界線の結末が分かっただけで、十分な収穫です! あなたを怒らせる気はございません。管理できるのなら須瀬亜志子といった女子も、どうぞご自由に……。話は、それだけですか?」
「
エルピス号の居住ブロックを掃除する、と告げれば、かぐやは悩み出した。
「外宇宙への旅……。希望すれば、それに連れていくと……」
「無理強いはしません。ただ、俺たちはミーティア女学園との連絡役や、危険な宇宙生物の制圧などを行っても、統治する気はないんです」
「私がリーダーになれと? 普通に老いて死に、世代交代をする人々の……」
「そうです! エルピス号は『他の惑星に移住したい』という生命体を相乗りさせ、入植の支援もやっているようで」
「逃せば、次はないですね? 私たちも同行します……。今後の予定は?」
「
首肯した『かぐや』は、すぐに応じる。
「直属の『ドールズ』で、屋内戦に強いチームを用意しましょう。私も、今のうちに身辺整理をしますか!」
言葉を切った彼女は、まっすぐに俺を見た。
「2周目のあなたの様子では、そちらが帰国する前に地球が滅んでも、おかしくないようですし……。ただし、永遠は辛いですよ?」
経験者の言葉だけに、重い。
「ミーティア女学園で、言われました! それでも、俺は死後に
「あなたの出自と力では、放っておかれないでしょう……。とにかく、魔王の
あの『マスクド・レディ』が気を遣うとは……。
今の俺は、どういう表情をしているのやら。
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