第853話 永遠の旅

 清楚な美少女である、長い黒髪のルイザが微笑んだ。


「満場一致で、室矢むろやくんをエルピス号に乗船させます! 彼が死ぬか、地球から逃げ出す時にだけど」


「「「は――い!」」」


 ミーティア女学園の生徒会室で、テーブルを囲んでいる女子たちが返事をした。


 これで、大きなハードルを乗り越えたわけだ……。


 生徒会長の席にいるルイザは、笑顔のまま、問いかけてくる。


「あなたを乗船させるまでは、決めたわ! ここからが、本題ね?」


 テーブルに両肘をついたルイザは、2つの手にあごをのせた。


「室矢くんが、室矢家の当主と理解しました……。ウチの船で、どうしたいの? 前の騒ぎで分かっただろうけど、居住ブロックは放置した物置みたいなもので……」


「問題は、この超空間にどれだけ入れるのってこと! 際限なく連れ込まれたら、困るのよ」


 ツンツンした感じで、風紀委員長のリディアが指摘した。


 放送委員長シアーラも、同意する。


「うん、そうだねー! ミーティア女学園を乗っ取れる人数は、嫌だ」


「現状で、室矢家の妻たちは確定……。逆に聞きたいが、肉体を捨てて同じ存在になることは?」

 

 俺の質問に、生徒会長が答える。


「室矢くんとハーレムは、構わないわ! ただし、子供や親戚、友人はダメ! そうなったら、芋づる式に増え続ける」


 首肯した俺は、提案する。


「超空間にパーティションを作れないか? そちらより低い権限で構わない」


 首肯した生徒会長は、考え込む。


「ああ、そういう……。参考までに、どれぐらい?」


「300~500人ぐらい。それとは別で、居住ブロックに移住希望者の街も……。そちらは世代交代だな」


「居住ブロックは、私たちが命の保証をせず、あなたの運営ならば、ご自由に! 権限が低い超空間については……。今は使っていないサーバーを復旧するのなら、そこで同じ存在になればいいわ! ただし、室矢くんが代表となり、定期的に連絡を取り合い、必要ならば責任を取ってもらいます」


「構わない……。どうせ、居住ブロックの掃除も兼ねているんだろ?」


 エへへと笑った生徒会長は、肯定する。


「分かった? さすがに、何のメリットもなく、乗せられないから……。室矢くんには、ずっと付き合ってもらいます!」


 他の女子たちも、ねっとりした視線を向けてきた。


 生徒会長のルイザが、宣言する。


「私たちに手を出して、その気にさせておいて……。他の女子のように、カスタマイズできるコピーで済ませる気はないわよね?」


 1人だけ老いて死ぬことは、許さない。


 彼女たちは、そう言っている。


詩央里しおりの許可はもらった……。生徒会のメンバーだけだ」


「りょーかい♪ だけど、辛いわよ? 私たちはこの広い宇宙で、永遠の旅を続けているの」


 真面目な顔のルイザが、こちらを見ている。


「私たちは、知的生命体との接触をさけている……。そのタブーを破った室矢くんには、責任を取ってもらいます!」


「分かっている……」


「代わりと言っては何だけど、あなたが連れていきたい女も、できるだけ優遇するわ! 永遠の旅という意味は、そちらで説明してちょうだい」


「ああ……。俺の裁量で動ける範囲を与えて、こうやって会うと」


「そうね! あなたが乗船した後に準備してもいいけど、暇を見つけてやったほうがいいわよ?」


「立ち入りの許可は?」


「カペラ? 必要な手続きや説明は、あなたがやりなさい」

「りょー!」


 これで、俺たちが死後に旅立つ船ができた。


 室矢家で2周目になった女子も、全員とは限らないか。

 留学の準備と並行して、ヒアリングしなければ……。


 考えていたら、生徒会長が話しかけてくる。


「そうそう! このエルピス号の技術などは、地球に伝えないでね? 間違いなく、自滅するから」


「承知している……。重力制御ができておらず、高速を越えられない程度では、まだ早い」


 遠い目になった生徒会長が、独白する。


「エルピス号の居住ブロックに乗せて、全滅や、入植した惑星で通信が途切れたこともあったわ……。私たちの母星も、映像記録だけ……。室矢くん? 一緒に探そうね、新たな移住先を」


「そうだな……。いつかは、辿り着けるだろう」


 私立の女子校のような部屋で、夕暮れが差し込んでくる。


 思うところがあるのか、他の女子たちも感慨深げ。


 ふと、生徒会長がこちらを見た。


重遠しげとおと呼んでも、いいかしら? 今後は運命共同体なのだし……」


「ああ、いいぞ」


 1周目とは違う、地球から離れる展開。


 俺は、俺たちは、この宇宙を旅し続ける。


「壮大な家出だな……」


 ボソッとつぶやけば、生徒会長のルイザが釘を刺す。


「もう、後戻りはできないわよ? 『やっぱり止めた』と言えば……」


「言えば?」


 満面の笑みを浮かべたルイザは、楽しそうに告げる。


「八つ当たりで、地球を滅ぼしちゃうかも♪」


 肩をすくめた俺は、あっさりと返す。


「せいぜい、死ぬまでにエルピス号の準備を進めておくさ!」



 それでも、いずれは地球に戻ってこよう。


 太陽系が滅びないうちに……。

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