第850話 ジュリエットの航海日誌ー①
大航海の時代。
帆が風を受けない海域は、まさに地獄だったらしい。
人力でオールを漕ぎ、船を軽くするために、家畜すら投げ捨てた。
しかし、どのようなピンチであろうと、船長は
今の私も――
ピィイイッ
>OFFICIAL DOCUMENT(公式データ)
>ROLL BACK* ALL(全ての復元)
*ESCAPE(エラー)
>CPF****(エラー理由)
「やっぱり、ダメか……」
普段は弱気である私も、今は諦めるわけにいかない。
端末のキーボードを叩く。
カタカタカタ
>MANUAL CONTROL(手動制御)
Level 4
Decks for battle
Sub Bridge
(レベル4の戦闘ブロックにあるサブブリッジ)
正面のモニターに、フレームだけで構成されたデッキの3D。
それは、ぐるりと回転した。
複雑だが、乗っている車両で走れる。
閉鎖型のコックピットに座っている私は、ため息を吐いた。
左右にある、戦闘機のようなスティックを握り、両足のフットバーを押し込む。
「私が……ミーティア女学園のみんなを助ける!」
その意思に答えるかのように、エルピス号の大きな通路に接しているタイヤが唸りを上げた。
後ろのシートに押しつけられる感覚も。
前に広がるモニターの景色を眺めつつ、どうしてこうなったのか、振り返る。
あれは、エルピス号の一部を切り離して、侵食するバクテリアを退治した直後だった。
・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
ミーティア女学園の生徒会室。
私を含めたメンバーが集まっている場で、生徒会長のルイザは息を吐いた。
「結果的に助かったとはいえ、あなたを殺したこと、お詫び申し上げます……。汚染の心配はないのね?」
「うん!」
同席している保健委員長は、笑顔で肯定した。
それを見た生徒会長が、招いた男子である
「気にしていない。俺の要望については?」
座ったままで腕を組む、生徒会長。
「あなた達が死ぬまでの超空間データリンクは、別にいいんだけど……。もう1つのほうは――」
「論外よ! あのさ? ここに入ってきたのはそっちの勝手だったし、お相子でいいけど。『エルピス号に他の人類と一緒に乗船させてくれ』というのは、調子に乗りすぎ! このメンバーだけで地球を滅ぼせると、覚えておきなさい」
生徒会長は、すぐに取り成す。
「リディア! ごめんなさいね? だけど、ミーティア女学園は男子禁制で、今ここにいるのも特別扱い。私たちは恒星間の旅で肉体を捨てたから、見た目は女子高生でも、実年齢は万年よ? 室矢くんも経験したように、人体をモンスターに変えるバクテリアのような未知の物体が珍しくないの! 仮に連れていくとしても、ブロックごと破棄されるように、全滅する覚悟をしてください」
風紀委員長のリディアが、混ぜ返す。
「エルピス号は大きいから、放置された居住ブロックにも何がいるやら……。連れていくとしても、そこよ? 多少の支援はするけど、あとは自給自足ね! もちろん、超空間は利用させない。こっちもリソースが限られているし、そこに踏み込ませると、見た目が女子高生の私たちにマウントを取り出すと、分かり切っているわ」
放送委員長のシアーラが、だるそうに指摘する。
「興味があるのは分かるけどー! せめて、対価を払ってもらわないと……。一時的に通信で超空間ネットワークを使うのは、どうでもいいけどさ?」
雰囲気が悪くなったことで、生徒会長は宣言する。
「数日ぐらい、ここに滞在して構わないから! カペラが面倒を見なさい」
「はーい♪」
――数日後
「ね? 室矢くん、どんな感じ?」
「うーん。話はしていない」
女子校だけあって、彼の話題で持ち切りに。
窓から見える光景は、夕暮れに差し掛かる。
『まだ校内に残っている生徒は、下校してください』
アナウンスが流れた。
友人を待っているのか、準備室の前に1人の女子。
私を見て、声をかけてきた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ……。誰か、待っているの?」
「カペラちゃんが、お土産を渡したいって言うから」
「そう……。遅くならないうちに、帰ってね?」
通り過ぎた後で、ガララ バタンッ! と引き戸が開け閉めされた音を聞く。
「ん?」
振り返れば、さっきまで女子が立っていたのに、誰もいない。
用事があったことから、深く考えずに立ち去った。
ここで女子が引き込まれた準備室に踏み込んでいれば、あるいは、違う結果があったのかもしれない。
私もそこで終わって、手動のロールバックに動けない可能性のほうが高いけど……。
知っているのは、翌日の学校で会った女子は、ものすごく上機嫌だったこと。
その様子を思い返せば、おかしいのは彼女と私のどちらだろう? と思える。
地球に行ったリラエアも、室矢くんと楽しんだらしい。
カペラと一緒に、どんどん誘っている。
生徒会長に相談して、強硬手段も考えなくては……。
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