第848話 えいりあん!ー②
漆黒の宇宙に浮かぶ、エルピス号。
その巨体は、SFアニメの宇宙コロニーを思わせる。
ログを表示するモニターで、箇条書きの文章が上から下へ。
“カーゴデッキG-341にて、異常検出”
各ブロックの報告に押し流されていく。
ほどなく、モニターから消えた。
システムが正確であっても、それをピックアップしなければ、意味がない。
宇宙は無音で、生物に有害な環境だ。
けれど……。
――エルピス号の中は、違う
作業用のマニュピレーターが折り畳まれた、宇宙と隣接したエリア。
その一部には、動かした時に傷つけたのか、大きな亀裂があった。
シューッ! と内部のエアが漏れているような音も……。
◇ ◇ ◇
降下船は、別空間を通って、エルピス号のデッキへ。
帰るだけの船内では、医療用カプセルから出たリラエアも、わいわいと話している。
「カペラは?」
「やることがあるからって……」
――システムの端末
カタカタカタ ピッ
シュイイイインッ
椅子に座って、プログラミングを進めているカペラは、笑顔だ。
スクロールしたままの速度で、どんどんコードを組む。
「待っててね~♪ 今、みんなを極楽へ……およよ?」
気になることがあるのか、視線だけ、別の方向へ。
その動きだけで、別のモニターに表示させる。
“カーゴデッキG-341 異常検出”
カタカタと両手を動かしつつ、視線による操作。
ピッ!
“カーゴデッキG-341に接続しているダクト、配管……リスト表示”
該当エリアの図面。
赤い線が、いくつにも分かれている。
真面目な顔のカペラは、首をかしげた。
その間にも、両手の動きでモジュールが作られ、動作テスト、結合テストは進んでいく。
「うーん? ま、いいか!」
プログラミングに集中したカペラは、じきに忘れた。
◇ ◇ ◇
ミーティア女学園には、当番制のお役目がある。
彼女たちは、エルピス号の最上位。
けれど、システムの目が届かない場所も多い。
恒星間の航行となれば、下手な国より大きく、複雑。
茶髪のボブで同じ色の瞳をした、大人しそうな女子が、集めたメンバーに宣言する。
宇宙服には、図書委員長のマーク。
生徒会に出席するメンバーの1人、ジュリエットだ。
「今回は、ここの掃除と整理をするよ! 面倒だけど、手をつけないとキリがないから……」
甲板掃除は、艦の日常だ。
けれど、エルピス号は広大で、いくつもの階層に分かれている。
普段はオートメーションで動くだけに、物資を運搬する列車や、高温の区画も……。
げんなりした顔の女子グループに、ジュリエットが励ます。
「目につく物資だけ、整理すればいいから! 久々の生身だから、無理はしないでね?」
「「「はーい」」」
内部を走っている列車で、作業に使うパワードスーツなどの装備も運ぶ。
人工的な灯りに照らされた車内で、女子高生たちの会話。
近未来のSFで宇宙服だが、ここだけを見れば、通学中のようだ。
列車は減速して、完全に停止。
バシュッと横にスライドした部分から、次々に降りる。
薄暗い空間に、カンカンという音。
どこを見てもメタリックで、宇宙船の中だと思える。
「あー、着いた着いた」
「ひどい臭い……」
指揮官のジュリエットが命じる。
「全員、パワードスーツを着用! 事前の計画に従い、分担するよ!」
簡易的なパワードスーツに背中を預ければ、前方に向けて包み込み、チュイインと立ち上がる。
ドンドンッと足音を立てつつ、数人のグループで、別の場所へ……。
――数時間後
「こちら、ジュリエット! 応答せよ!」
しかし、返事がない。
「見てくる! 動き回らないでね?」
「う、うん……。気をつけて」
小銃らしき物体をスリングで肩掛けしたジュリエットは、動きやすい宇宙服だけで走り出した。
カンカンカン
最低限の明るさだけの通路に、ジュリエットの足音が響く。
レーザーライフルを両手で持った彼女は、音信不通になった班がいる場所を覗き込む。
……何もいない。
ヘルメットのバイザーを下ろす。
左腕に巻き付けている端末に、触った。
ヒュイッ ヒュイッ
バイザーの内側に、レーダーが表示された。
肩付けしたレーザーライフルで、銃口と視線を一致させつつ、ゆっくりと前へ。
『誰もいない……。何これ!? すごい腐食……』
不思議と、女子たちが使っていたパワードスーツはボロボロだ。
片手で小銃のグリップを握りつつ、近くに落ちていた物を調べる。
『宇宙服? どうして、こんな場所に……。え! 上下のインナーもある』
セットの下着まで。
一通りを見たジュリエットは、両手でレーザーライフルを構えつつ、向きを変え続ける。
『何が起きているの? 全員分で、どれも破れた形跡すらない……』
襲われても、この状況はおかしすぎる。
混乱するジュリエットだが、このままでは危険だ。
『全員に告ぐ! ただちに、この場から離脱――』
『キャアアアッ!』
その返事は、誰かの悲鳴だった。
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