第847話 えいりあん!ー①

 地上に潜伏している降下船の中で、リーダーの女子が定時連絡。



 ――USFAユーエスエフエー


 様々な人種が混ざっている街角のカフェ


『こちら、異常なし!』

『ハンバーガーとホットドッグ、ピザしかない!』



 ――東アジア連合


 ごちゃごちゃした市街地で、走る音。


 パンパンパン!


 乾いた発砲音と、怒鳴り声。


『現地の治安機関と交戦中! 落ち着いたら、緊急脱出する予定!』

『とにかく、上へ!』



 ――REUアールイーユー


 カラフルな水着だらけのビーチ。


『日光浴!』

『意外に、退屈……』



 ――シベリア共同体


 毛皮を着たようなネコが、渋い顔。


 それを正面から映しながら、報告する。


『寒い!』

『とても寒い!』


『ニャー』



 ――日本


 暗い画面で、断続的な呼吸と、粘っこい音。


『あ! ちょっと、カペラちゃん!? ……は、はい! 何ですか?』


 首から上だけ映ったリラエアが、気恥ずかしそうに、笑顔を作った。


「定時連絡! そちらに異常――」

『んふっ!』


「……異常は?」


 下で揺れている感じのリラエアは、ふっふっと息を吐いた後で、画面に向き直る。


『ちょっと、今は止めてくだ……。な、何でもありません!』


「どこにいるの?」


 視線を彷徨わせたリラエアは、そのまま答える。


『えーっと……。日本の女子校で、カペラちゃんとお風呂に入っています! あふっ! のぼせたから、そろそろ切るねぇっ?』



 ――数時間後


 ピ―――ッ!


 降下船でウトウトしていた女子は、緊急アラームに叩き起こされた。


 合成された音声が、異常を警告する。


『1名の意識喪失ならびにアストラル体への深刻な干渉! 非常事態を宣言します。対象者への処置を決めてください』


「全員のステータスは?」


『対象を含め、緊急脱出による回収をコンプリート!』


 すると、バシュッと扉が開き、戻ってきた女子の姿。


「どうしたの?」

「まだ、お土産を買ってなかったのに……」


「1名が意識不明よ! 管理AIは、対象者への処置を求めているわ」


 リーダーの宣言で、ざわつく女子たち。


「え!?」

「どこの?」

「……日本へ行ったグループだね」


 その時に、カペラの声がする。


『開けてー! リラエアちゃんが、気絶しちゃったのー!』


「キャプテン!」

「早くしないと……」


 オロオロする女子たちに、キャプテンと呼ばれた女子は、首を横に振った。


「ダメ! リラエアはした可能性がある! マニュアルに従い、全ての検査が終わるまで、そのまま隔離する」


「えっ?」

「冷たいよ、マリナ!」


『開ーけーてー!』


「ほら、カペラちゃんも困っているし!」


 マリナは、改めて小型モニターのカペラを見た。


 同行していた友人が気絶したのに、なぜか、笑顔のようだ。


 声音も、どこか喜んでいるような……。


 バシュッ


 ドアが開く音で、マリナは我に返った。


 見れば、女子の1人が勝手に開けたようだ。


「大丈夫!?」

「リラエア、しっかりして!」


 医務室へ運ばれていく、リラエア。


 それを見たマリナは、ふうっと息を吐いた。


 降下船の管理AIが、尋ねてくる。


『どうしますか?』


「リラエアの治療をしてちょうだい……。念のため、監視を! 戻ったら、カペラにも事情を聴く」


 マリナは、当事者の1人に視線を向けた。


「ハーイ♪」


 陽気な声を聞いたマリナは、再び、ため息を吐いた。


「懲罰になるわよ?」

「えー!?」



 船長のマリナが、指揮を執る。


「みんな、注目! この船は今よりエルピス号へ帰還する! リラエアは?」

「医務室で、カプセルに入れた!」


 首肯したマリナは、指示を出す。


「全員、シートに着きなさい! ちゃんと固定するように! 次元侵入でも、何が起きるか不明よ?」


 航空機のシートを思わせる場所に、隣り合って座る女子たち。

 

 遊園地のアトラクションを思わせるバーを下ろし、体ごと固定する。


「準備よし!」

「完了!」


 それを見て回ったマリナは、パイロットの女子がいるコックピットへ。


 指揮官の席に座り、同じくシートベルトを締めつつ、命じる。


「出して!」


「うん、分かった!」


 パイロットは、両手をそれぞれに動かす。


 それに伴い、ヒィーンという音が高まっていく。


「チェック、チェック……。機関よし、フィールドよし、座標よし……」


 パチパチと、スイッチ類が押されるか、方向が逆に。

 モニターに表示されている数値、スターシップの向きも変化。


 アニメとは違い、ガラス窓を通しての光景はない。


「オール、レディ!」


「レッコー」


「アイアイ、マム!」


 全員を収容した降下船は、地球の人間が辿れないルートで、宇宙にいる巨大なエルピス号の中へ。


 室矢むろや重遠しげとおに可愛がられ、アへ顔で、ぐったりと脱力したままのリラエアを乗せたまま……。


 固定用のバーで動けない女子たちが、会話をしている。


「戻ったら、報告書を出さないと」

「面倒だなあ……」


「カペラちゃん、大丈夫だった?」

「何があったの?」


「ん? リラエアちゃんには、刺激が強かったみたいで……」


 首をかしげる面々に、カペラは笑顔で言う。


「みんなにも、分けてあげるね?」


 現地でお土産を買ってきたと判断して、口々に言う。


「気絶するほどのお土産……」

「生牡蠣に当たったの?」

「リラエアも、大丈夫かな?」


 カペラは、悪戯っぽく告げる。


「ちゃんと、みんなの分があるから! 楽しみにしてね?」

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