第845話 2周目は紫苑学園の出番なし
黒髪ロングで赤紫の瞳をした女子が、真新しい制服に身を包み、同じく折り目のない生徒手帳にある自分の顔写真を見た。
周りを眺めた後で、しみじみと
「懐かしいですね……」
「そうね! たぶん、今日が見納めよ? 通信制クラスはないし、無理に通う必要もない」
海外留学の結果によっては、数年は現地で、そのまま卒業だ。
「ええ……」
1周目の記憶。
現役の女子高生でも、老婆から若返ったように思える。
感慨に
「そこの2人! 今は授業中だぞ!?」
◇ ◇ ◇
高等部1-Aは、英語の文法。
「この言い回しは――」
しかし、誰もが飛び入りの女子2人に、気もそぞろ。
(あの金髪のほうが、咲良だよな?)
(胸でけー!)
(悠月って、あの財閥と同じだろ?)
(逆玉じゃん!)
私語ばかりでも、教師は加減が分からず、様子見。
財閥のお嬢さまである、明夜音。
その機嫌を損ねないためにも、この授業はパスして、次で対応するつもりだ。
陽キャの
2人を俺たちのグループへ誘い、連絡先を確保しないと……。
見たところ、すぐに
文化祭、体育祭、集団によるグループワーク。
彼女たちと共通体験を重ねつつ、相談に乗れるポジションを維持しよう。
意外に冷静な、幸伸。
咲良と悠月のどちらも俺に好意を寄せた場合が、問題だ。
最初から狙いを絞るのはもったいないし、裏目に出たらマズい。
最悪、あの2人と付き合えなくても、友達を紹介してもらう、敗者復活戦があるのだから……。
勝負は、次の休憩時間。
グループチャットに、あの2人を加えよう。
それは、グループの誰かで十分。
じっくりいくか!
『キーンコーンカーンコーン♪』
ゴングが鳴った。
「次回までに、当たる人は予習しておくように!」
教師の言葉とほぼ同時に、男子が席を立つ。
「咲良さんって――」
「悠月さんは、やっぱり悠月グループの――」
2人を助けるため、思わず立ち上がろうとした
ちなみに、彼女はデカパイだ。
己の武器をよく理解した行為を見た、衿香の親友である
次に、いきなり加わった女子2人を見たが、すぐに目を見張る。
転校生2人を囲んでいた男子も、驚きの声。
「えっ?」
「ちょっと?」
その場でタメを作ってからのジャンプで男子の囲いを飛び越えたマルグリットと、上品にスカートを押さえての明夜音。
ダアァアアンッ!
着地の際に、校舎を揺らすほどの衝撃。
姿勢を崩す面々に対して、早姫は動じず、彼女たちの行動を見守る。
「早退するわね!」
「同じく」
大声で叫ぶが早いか、女子2人は開いている窓から飛び出した。
「ま、待って!」
「え?」
理解が追いつかない男子は、それでも引き留める。
アクセサリーや下着に仕込んだ
呆れたように見送った早姫は、組んでいた腕を下ろしつつ、ため息を吐く。
「騒がしい女子ね? ただでさえ、
言葉とは裏腹に、手を差し出した早姫。
それをつかんだ
「すまん……。
首肯した早姫は、苦笑する。
「そうね……。同じ人生をやり直している気がするほど」
「浮気は許さない、浮気は許さない、浮気は許さない」
男子は嘆き、陽キャの代表である幸伸は口が半開きのまま、宇宙ネコ状態。
血相を変えた教師たちが、教室に飛び込んでくる。
カオスになっている周囲に構わず、勝悟は寂しそうに呟く。
「あいつ……。いったい、どこを目指しているんだろうな?」
――同時刻、石の迷宮
大きな赤い目が、いくつもある。
巨大な、白い
人を利用して
彼は、石畳に立つ男子高校生を見ていた。
対する室矢重遠は私服のままで、気負わず。
「色々あったな……。ああ、色々だ……」
『ヴオオォオオッ!』
返事と悲鳴の区別がつかない声が、オウジェリシスから響いた。
重遠は会話をするように、続ける。
「そろそろ、
二振りのリジェクト・ブレードによって、シルバーの輝きが走った。
「完全解放でなくても、このクラスを倒せるか……。
一時的に、神格を消せる。
文字通りに世界を変えた重遠は、崩壊する石の迷宮から帰還した。
ある意味では、邪神と同じ存在。
それでも、彼は1周目に達成できなかった目標へ向かっていく……。
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