第843話 警察に対しては異能者サイドとして交渉ー③

 窓のない会議室に、沈黙が流れた。


 警視総監は、かろうじて問いかける。


『それは……どのようなお考えで?』


 悠月ゆづき五夜いつよは、笑顔のままで答える。


「むろん、もう1つの警察です……。あなた方が異能者を扱いかねる状況では、無理にその一部となるより、独自に組織を作ったほうがお互いに良いのでは? 複数の捜査機関を持つ国は多いです。日本では滅多に動きませんが、検察などにも捜査権があるでしょう?」


 軍警察、憲兵隊、国家警察。


 だいたい、この3つがいる。


 軍警察は、テロなどの凶悪犯の処理や、海外派遣を担当。


 一般的な警察は、国家警察。

 国土が広い場合は、憲兵隊が地方をカバーすることも多い。


 USFAユーエスエフエーで有名な保安官は、地元の選挙で任命される。

 世界史としては徴税官らしく、その単語からシェリフと名付けられたそうな……。


『確かに……諸外国では複数の捜査機関があります。しかし、ここは日本です! USのような警察組織の乱立は限られた予算と人員を食い合う他に、無用な縄張り意識を生み、検挙率にも大きく影響するでしょう! 現状の上手くいっている状態を――』

「私は、警察内部で異能者が差別されていると申し上げました。それに対して、ご回答は?」


 まくし立てていた警視総監は、言葉に詰まる。


『その件は……。柳井やないがいなければ、即答しかねます。会議が終わりましたら、すぐに連絡をとりますので』


 しかし、その柳井つかさが海外に飛ばされたことが、そもそもの発端だ。


 警察キャリアで、桜技おうぎ流の筆頭巫女でもある天沢あまさわ咲莉菜さりなが、警察から抜けると主張している最中。


 ここで演舞巫女えんぶみこが原因だと指摘すれば、真牙しんが流の魔法師マギクスとの戦闘が始まってしまう。


 五夜も、深追いせず。


「分かりました。けれど、柳井さんが海外を飛び回っている以上、いつ戻ってくるか不明です。真牙流としての判断ゆえ、ご本人と直接話すことでのみ、納得します。通信となれば、こちらにも手段はありますから」


 人の名前を勝手に使い、自分たちに都合がいいことを喋るな、という牽制けんせいだ。


 警察に不信感があると示した以上、その逆。

 マギクスの魔法技術を提供させて一本化することも、言い出せない。


「何にせよ、『現状で返事はできない』とうけたまわりました。貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」


 五夜は立ち上がり、軽く頭を下げた。

 護衛のマギクスと一緒に、会議室から出ていく。


 ドアが閉じたら、円卓についている警察キャリアは息を吐いた。


 間髪入れずに、咲莉菜が話し出す。


北垣きたがき錬大路れんおおじの一家を見つける前に私が辞めたら、桜技流を捜査するので?」


 ため息を吐いた長官が、マイクに話す。


『そちらは、いったん白紙だ……。北垣と錬大路の一家が行方不明であることの捜査は続行する!』


 二家の話に留め、桜技流は対象外。


 咲莉菜は、ここで釘を刺す。


「1つだけ……。『桜技流の警察からの離脱』ですが、いつまでも『数年だけ同じ予算を渡す』の条件とは限らないことを申し上げておきます。わたくしも昔の筆頭巫女と同じく殉ずる覚悟はあり、その場合の備えがあることをお忘れなく」


 まだ、言いたいことはあるか? と、雰囲気だけで告げる。


『今回は、「事前の話し合い」だったな?』


「はい」


『天沢くんの話にも、即答はできない……。こちらで検討するから、室矢むろやくんと一緒に退室して構わん』



 ◇ ◇ ◇



 天沢咲莉菜と一緒に、後部座席。


「警察は、もう動けないのでー! 従順なマギクスが抜ければ、対異能者と、防衛軍のクーデターに対応できませんから」


「演舞巫女は、怪異退治だったしなあ……」


 政財界に顔が利く悠月家の宣言。


 こっそりと咲莉菜を詰めるのは、もはや無理。


「俺たちが抜けても、大丈夫か?」


「もちろん! わたくしも2周目なのでー! 重遠しげとおが帰国するまでに、こちらも整理しておきます!」


「頼む」


 咲莉菜が興味深そうな顔で、尋ねてくる。


「後は、どうするので?」


「ん? 退に……。原作の主人公と遊んでやる! 次は、操備そうび流だな。そろそろ、外宇宙に出ていく船を手に入れたい」


 ニコニコしている俺に、咲莉菜は引きつった笑顔。


「想像はしていますがー! どのように?」


「桜技流の女子みたいに、俺の言うことを聞く状態にする」


 …………


 …………


 固まっていた咲莉菜は、少しずつ解凍される。


「あれで……遠慮していたのでー!?」


「ミーティア女学園は肉体がないから、無制限にイケるだろう」


 心なしか、咲莉菜は座りつつも、後ずさり。


 ふと気づいたように、突っ込む。


決戦兵器ヘーロースがあれば、地球を征服できるのでは?」


「え? 嫌だよ! そんな面倒なことをするのは……。やっぱり、外宇宙を探索してこそ、浪漫! 滅ぼすだけなら昔の騎馬民族もやっていたけど、統治はできなかった」

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