第842話 警察に対しては異能者サイドとして交渉ー②

 警備部長は、さらに突っ込む。


『海外逃亡をしている北垣きたがき錬大路れんおおじだが、その家族も行方不明! 四大流派の1つとはいえ、普通に暮らしていた一家が……。主要な道路や施設に監視カメラがあって、リアルタイム監視の時代にだ! 天沢あまさわくんが退職するのは個人の権利だが、その場合は我々が徹底的に捜査する! 状況からして、どちらも逃亡犯に殺害された可能性が高いからな? むろん、事実関係がはっきりするまで、トップ不在の刀剣類保管局は凍結する』


 人質にされないよう、その二家は室矢むろやカレナが退避させた。


 彼が言いたいのは、天沢咲莉菜さりなが北垣と錬大路の家族を見つけるまでに辞めたら、令状による家宅捜索と、桜技おうぎ流の学校、禁則地までも強制捜査か……。


 マスコミを利用して、世論もあおる。

 お昼のワイドショーは、面白おかしくさえずるだろう。


 時間がつほど、筆頭巫女にして警察キャリアの咲莉菜はイメージが悪くなる。

 兼任していることでの弱点を突いた形。


 となれば、神社の本庁も、彼女を責めるだろう。


 そちらと世間、自分たちの三方向で追い詰めれば、桜技流で咲莉菜を支持している層も手の平を返し、解任なりのアクションに繋がる。


 こいつらの視点で、北垣家と錬大路家の生存は、どうでもいい。

 問題は、咲莉菜。


 桜技流の不正がなくなっても、実働部隊を統括している彼女を押さえれば、当座はしのげるのだから。


 二家を虐殺していれば、出しようがない。

 出せば、北垣なぎたちの共犯として捕らえ、減刑の代わりで、自分たちの手駒に。


 どう転んでも、現状維持。

 弱みを握った咲莉菜を使い、桜技流を正式な警官にする第一歩へ。


 ククク……。


 ああ、そうだろうな?

 一見すると、咲莉菜を押さえて、桜技流も従わせる最善手。


 だが、それまでだ!


 この2周目は、1周目のようには済まさない。


 俺は、室矢家を残すんだ。


 お前たちは、その意味をまだ分かっていない……。



 警備部長は、優位に立ったままで、問いかける。


『どうするね、天沢くん? 「桜技流の離脱」が君の私見である以上、ひとまずは君の進退だけ――』

 ガチャッ


 汗をかいているスーツ姿の男だ。


「お、お話し中に失礼します!」

『後にしたまえ!』


「で、ですが!」


 見かねた長官が、口を挟む。


『緊急かね?』

「はいっ!」


 馬鹿みたいに、何度もうなずく男。


 壁際を早足で歩き、上座の長官に耳打ちする。


「……それは本当か!?」

「は、はい」


 初めて大声を上げた長官に、男は肯定した。


 こちらを一瞥いちべつした後で、指示を出す。


「今すぐ、ここへお連れしろ! 失礼のないようにな?」

「わ、分かりました」


 早足の男は、すぐに会議室を出ていった。


 長官は、戸惑う警備部長に話す。


『VIPが来る。……天沢くんも待ちたまえ』

「はい」



 防音がしっかりしているため、いきなりドアが開く音。


 ガチャッ


「ごきげんよう、皆さま? 私の勝手で押しかけてしまい、大変申し訳ございません……。護衛は、こちらの標準的な対応です。お気になさらず」


 しとやかな声。


 見なくても分かる。

 悠月ゆづき五夜いつよだ。


 上座にいる長官が、マイクで話す。


『悠月さんなら、いつでも構いませんよ? 空いている席へどうぞ』


 俺と咲莉菜の横へ、五夜が座った。


 護衛の魔法師マギクスたちは、その後ろで壁を背に。


 先に立っていたSP(セキュリティ・ポリス)は、そこを退いた。


 完全にアウェーだが、五夜は優雅に話す。


「本当は、ウチの上級幹部(プロヴェータ)である柳井やないさんと話すべきですが……。あいにく、不在のようで」


 そいつは、USで凪とみおを追いかけているよ?

 運が悪ければ、日本に帰れない。


 息を吐いた長官は、状況を説明する。


『彼は、ちょうど話題にしていた逃亡犯、北垣と錬大路を追っているので……。しかし、マギクスの警察からの撤退とは、穏やかではありませんな? 何か、ご不満でも?』


 その言葉で、キャリアたちが驚く。


 長官は、担当している人間にバトンタッチ。


『警視総監……。これは、君の管轄だ。悠月さんに対応してくれ』

「ハッ!」


 マイクを触った警視総監が、五夜に問いかける。


『悠月さんは、どのようにお考えで?』


「警察庁の担当である柳井さんが、このような扱いを受けたことで、まして階級が低いマギクスはどうかと……」


 呼吸を整えた警視総監は、慎重に答える。


『柳井は、自主的に動いております! 我々が強要したわけではありません! 悠月さんの要望は改めてお伺いするので、この場は――』

「あら? 私がいると、不都合ですか?」


 実際、その通りだ。


 四大流派の3つが揃っているうえ、タッグを組まれれば、どうにもならない。


『い、いえ……。ですが、他の事情も絡んでいますので――』

「今回の件で、私は警察庁に上級幹部プロヴェータを置くべきか、疑問に感じています」


『何をおっしゃりたいので?』


 全員に注目されたまま、五夜は結論を述べる。


私共わたくしどもは自分たちの権利を守るため、新しく治安維持組織を作るべきではないかと、申し上げています」


 平たく言えば、異能者による警察を作る、というわけだ。

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