第840話 楽しんだのか、わたくし以外の女子たちと【咲莉菜side】
肌を伝うも蒸発して、本来の役割を果たす。
体中の水分を奪われるような熱量を放つは、
女子高生とは思えない。
「重遠? ずいぶんと遊んだようですね? 楽しんでいただけたようで何より……な・の・でー!」
ハメて外したのか、わたくし以外の女子たちと……。
言外に、そう言っている。
2周目になった咲莉菜は、自身の首にブレードを突きつけていた黒づくめを逆につかみ、見る見るうちに炎で包んだ。
言葉にならないまま、骨まで消えていく男を見た重遠は、だからすぐに彼女を離せと言ったのに、と心の中で突っ込む。
「な……」
絶句したのは、
その顔を見た重遠は、初めて動く巨大ロボットを見たモブ兵士みたいだと思う。
対する咲莉菜は、死刑宣告。
「桜技流と
――
初手で、御神刀の
ふーん。
いきなり、トップスピードじゃん?
広間を覆い尽くすほどの炎が、咲莉菜を中心に吹き荒れた。
重遠は、かろうじて結界によるガード。
業火の中に立つ咲莉菜は、全ての炎を吸い込んで真っ赤の刀身を振り抜き、その方向が屋敷ごと塵へ……。
「2周目だから、ゆっくりできると思えばー! 重遠はこんなでー! こんなでええええー!! あれほど楽しそうにぃいいいいっ! ズンズンズンと!」
それでも、刀の扱いは上手い。
見事な重心移動を
刀を振り抜くたびに、また1つ、建物や人が消し飛ぶ。
武羅小路家の広い敷地と家屋は、文字通り、
生存者は、男女の高校生2人だけ。
――
「そういうわけでー! 桜技流の不正は根絶しました」
上座で座っている咲耶は、何とか返事をする。
「あ、うん……。ご苦労様……」
天沢咲莉菜は、笑顔だ。
「武羅小路家と
「あれで残るほうが怖いわよ?」
「まだ生き残っている者は、協力的でー」
「それはそうね」
咲耶は、尋ねる。
「重遠を狙っていたように見えたけど?」
「……そんなわけがないのでー!」
どうして、間を置いたの?
そう聞きたい咲耶に、咲莉菜は話題を変える。
「今回の始末ですがー! 不正に関わった生徒で、重遠の提案に乗った者も大勢います。いかがいたしましょうか?」
着物の袖で口元を隠した咲耶は、しばし迷った後で、答える。
「改心したのなら、機会を与えなさい! すぐに警察から離脱するのなら、ここで求心力と人を失うのは悪手です。ただし、中心にいた武羅小路家と天衣津家は許しません」
両手を畳についた咲莉菜は、平伏した。
「委細承知いたしましたー!」
咲耶は、頭を上げた咲莉菜に説明する。
「先ほどの二家と積極的に関係していた者を除き、なるべく温情を示しなさい。室矢家を残すのならば、そちらにも管理責任を負ってもらいます」
「はい」
戸惑った咲耶は、咲莉菜の顔を見た。
「やっぱり、死んだ後には……」
首肯した咲莉菜が、はっきりと答える。
「重遠と一緒に旅立ちますー!」
「そう……」
覚悟していたのか、咲耶は説得しない。
代わりに、縁側から広がる庭で舞い散る桜を眺めた。
「外宇宙で、本物の花見はできないわね?」
「桜を咲かせることは、できるのでー!」
咲莉菜の宣言に、咲耶はそちらを見た。
「移住可能な惑星を見つけるか、宇宙船で育てられるかも……。それに、咲耶さまの教えは、わたくしが覚えています」
ため息を吐いた咲耶は、笑顔に。
「そうね……。そうかもしれない……」
感慨深げに言った咲耶は、改めて咲莉菜を見つめた。
「海上艦にも神棚がある……。なら、恒星間の宇宙船にあっても、おかしくないわ!」
けれど、咲耶は
「咲莉菜? それは外しなさい!」
身をよじった彼女は、首を横に振った。
「嫌なのでー!」
指を
「あなたが死後に旅立つのはいいけど、桜技流の筆頭巫女に『ひらがなで名前を書いた首輪をつける』という前例を作られたら困るの!」
「嫌なのでー!」
駄々っ子のように断る咲莉菜の首には、重遠の筆跡で “さりな” と書かれた首輪がついていた。
彼に調教された
ともあれ、桜技流の不正は根絶した。
1周目よりも被害は軽微で、事態を把握していない警察が動く前に、次の行動へ。
重遠が説得した女子は、主な学校で200名オーバー。
一個中隊だ。
1周目で処分された面々も含まれ、室矢家の一翼を担うことに……。
重遠が抱く人数を除けば、理想的な結末。
それですら、欧州で待つ面倒を思えば、前座の1つに過ぎない。
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