第837話 凪と澪の楽しい海外旅行ー③

 光るバッジが目立つ制服が、行き来する。


 封鎖された現場に、違う形のバッジがついた手帳を見せたグループが通された。


 現場を仕切っている刑事は、迷惑そうな顔。


「フェズのランデッカーさん……。うちが先に到着したから、あまり荒らさないで欲しいんですがね?」


 FBIの特別捜査官と示した男は、あまり気にせず、身分証を仕舞った。


「ウチが追っていた奴でして……。本人確認ですよ」

「こちらへ」


 背を向けた刑事は、ツカツカと歩き出す。


「悪い奴は、ろくな死に方ができないものだね!」

「ブラディのことで?」


 ランデッカーが尋ねれば、刑事は肯定する。


「まさか、に乗り込まれて、そのまま撃ち殺されるとは……。クックッ」

「ここに住んでいるペティジョン一家は、無事だとか?」


「そうですよ! 不幸中の幸いだ! 家族ごっこのシリアルキラーと、男装の少女コンビで潰し合ったわりには」

「女の振りをした男の可能性もありますけどね? しかし、ハイド家は残念だった」


「まだブラディを疑っていなかったからな! 皆殺しにされれば、無理もない」

「シリアルキラーは普段の行動から想像しにくく、我々がいます」


「現場はココです! 食堂でほぼ全員がテーブルにつき、尋ねてきた女がいきなりズドン! こちらの鑑識で良ければ、あとで資料をお渡ししますよ?」

「お願いします」


 北垣きたがきなぎは、そのまま発砲したようだ。


 現場を見て、考え込むランデッカー。


 興味深そうに、刑事が尋ねる。


「その女2人も、やっぱり同類で?」

「いや……。どうでしょうね」


 トリガーハッピーなら、全員を撃ったはず。

 それでなくても、顔を見た人間を始末するのがセオリーだ。

 

 ペティジョン一家との接点はなく、車が故障したから、という理由。

 不自然に感じても、いきなり発砲するだろうか?


 人質にされていた子供2人も、その犯人らしき女に助けられた。

 同じ顔なら、別で双子がいる?


 ランデッカーは、刑事を見た。


「危険人物には違いありません! 監視カメラは?」

「さっぱり! 荒野ですからね……。俺なら、こんな場所にはもう住みたくないですが」


「金や貴金属は?」

「ブラディを撃った後に、すぐ立ち去ったようで……。今のところ、強盗とは言いづらいですな! クソ野郎をぶっ殺したことで表彰するわけにもいかないが」


「その女2人の車もない……」

「ええ! 強盗なら、嘘をついただけかと。今ごろは別の州にいますよ!」



 外が騒がしい。


 顔を見合わせた2人が出てみれば、そこには男女2人。


 話を聞けば、日本から北垣凪を追ってきたそうだ。


 刑事がうんざりした顔で、相手をする。


「そう言われましてもね? ウチが知りたいぐらいだ! ここから移動したのなら、車で――州に向かったんだろうよ。……ナギと呼んだのは事実らしいが」


 ギャーギャーと騒いでいた2人は、ようやく立ち去った。


 車で、北垣凪と錬大路れんおおじみおが逃げたと思われる方向へ急発進。



 ――日本警察の車


 助手席でもたれた男は、ぼやく。


「やれやれ! こんな地の果てでも殺しとはな! ひでー凶悪犯だ」

柳井やない警視正! そんなことを言っている場合じゃないでしょう!?」


 運転席で必死の形相をしているのは、北垣凪に倒された木月きづき祐美ゆみ


 真牙しんが流と警察の2つで、彼女たちを追っているようだ。

 1周目とは違い、警察サイドの異能者である男女は、凶悪犯を捕まえるまで日本に帰れず。


 柳井つかさは上体を起こしつつ、気を遣う。


「へいへい……。木月も、あまり根を詰めるなよ? ここは日本とは違うんだ。先は長い」



 ◇ ◇ ◇



 追われている女子2人は、暢気だ。

 カントリーミュージックを流しつつ、同じ景色の中をひた走る。


 よそ見をしても交通事故にならない車道で、澪が尋ねる。


「ねえ、凪! どうして、すぐに撃ったの?」


「ん? あの家で、何も聞かずに招待されたし……。家長の男に、みんなビクビクしていたからね」

「そうじゃなくて!」


「道路の脇にあった看板に、弾着の跡があった……。それも、比較的新しいのが……。そういう手合いは、いずれ人を撃ちたくなるんだよ!」


 凪の説明に、澪は黙り込んだ。


「次に、玄関で応対したオバサン! 何も聞かず、私たちを帰そうとした」

「うん……」


「決定打は、食堂での家族ごっこ! 上座にいる男だけ、妙に浮いていたんだ。必死に演じている感じが凄くて……」


「間違っていたら?」


 澪の指摘に、凪はしれっと答える。


「血の臭いがあったから……。私が確信したのは、銃を抜いた時の反応! やっぱり、あいつだけ反応が違った」


「銃を抜きかけていたわね? まあ、家族団らんでホルスターに装填した銃を忍ばせるのは、刑事でもいないか……」


 それにしても、いきなりヘッドショットは……。


 視線でそう訴えた澪に、凪は声が低くなった。


「少なくとも、いつぞやの私と同じ気配がしたから……。相手が抵抗しなければ、ギリギリで外すぐらいはできたし!」


 どこまで本気か分からず、澪は車外へ視線を移しつつ、そう、とつぶやく。


 ちなみに、パンクした車は、室矢むろやカレナに修理してもらった。

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