第835話 凪と澪の楽しい海外旅行ー①
金髪で狐耳2つがある、笑顔の女子。
真面目そうな女子。
2人の顔写真が、横に並んでいる。
『
全国放送のテレビに出ている女子2人は、指名手配中。
放送後に、コスプレをした服装で手配とは、ふざけているのか? というクレームが寄せられた。
車内にいる刑事が、スマホを耳に当てている。
「錬大路家に誰かが立ち寄る気配はありません……。はい! 止水学館のほうは先方からの通報を待つ形で――」
報告を終えた男は、コンビニで買ってきた袋パンに齧りつき、呑み込むように食べる。
「いくら四大流派といっても、ここまで逃げ切れるもんかねえ?」
花も恥じらう女子高生。
おまけに、かなり目立つ容姿だ。
誰も近寄らない廃墟エリアに行くか手配師の日雇い仕事をしながら1泊数千円の宿を渡り歩けば、潜伏できるだろうが……。
北垣と錬大路がそれを行えば、裏で仕切っている広域団体のスケとして囲われるか、廻される。
そうでなくても、周囲の男に狙われ、安心して眠れないし飲み食いできず。
経営者がふんぞり返って車載電話で話す時代なら、いざ知らず。
街のいたるところに監視カメラがあり、リアルタイムだ。
主要な道路か、人が多い駅前に行けば、どれだけ短時間でも顔識別。
情報屋も、張り切って売り込む。
考えることを止めた刑事は、覆面パトカーから、そっと見る。
「勘弁してくれ……。どう見ても、
私服で一般人に
犯人の女子2人が所属している
警察官の身分を明かして、彼らを連行か、説得するべきだが……。
半人前の女子2人に精鋭がやられ、殺気立っているから、何をしてくるか不明だ。
うっかり揉めれば、マギクスが警察から離脱する。
「警察庁にいるキャリアですら、『その女子2人を仕留めるまで、帰ってくるな!』だものなあ……」
地方のノンキャリには雲の上のはずの中央キャリアですら、新米巡査が取り締まりノルマで追い込みをかけられる勢いで日本から出た。
もう、怖すぎる。
◇ ◇ ◇
日本のマスコミが映すのは、大都市。
カメラの外では、車道の脇にポツンと郵便受けがあることも……。
うっかり故障したら、本気で遭難する場所。
そこに停まっている車の傍に立つ警官が、開いた窓越しにID2つを返却。
「東洋人は、本当に幼く見えるな! やっぱり、観光か?」
サングラスをかけた警官は、右手ですぐに銃を抜ける位置だ。
いっぽう、日本人でも童顔とされる女は、笑顔。
「うん! まあ、仕事のついでだけど……」
北垣
警官は、運転席の錬大路
「あんたも大変だな? 西海岸から東まで突っ走るのは、長距離ドライバーぐらいだぞ?」
銃を持っていると疑われないよう、ハンドルの上に両手を置いたままの澪は、そちらを見て微笑んだ。
「ドライブが趣味なの! もっと早く来てくれれば、助かったんだけど?」
「それは悪かった! USだと警官がよく撃たれるから、その前にナンバー照会をするのがセオリーでな? ま、気をつけて」
職務質問が終わり、和やかにお別れ。
運転する澪は、ため息を吐いた。
バックミラーで、停車中のパトカーが追ってこないことをチェック。
「生きた心地がしないわね?」
「澪ちゃんは考えすぎだよ! それより、次のモーテル! 給油とデリの調達は早め、早めで! 日が暮れる前にね?」
ハンドルを握っている澪は、地平の彼方まで同じ景色を見ながら、同意する。
「そうね……。“シェフのお勧め” で30$払って、食えたものじゃない料理が出てくるとは」
「ファーストフードか、スーパーのデリが大正義! 次は、何味にしよう?」
「凪はいいわね? ああ、和食が恋しい……」
「豆腐なら、スーパーにいくらでもあるよ?」
「私は、まともな食事をしたいの!」
言いながらも、チェーン店のモーテルを見つけて、減速。
ハンドルを切った。
安い個人経営のモーテルに入り、寝込みを襲われかけた2人は、もうお金をケチらない。
「ロスは賑やかだろうに……」
「ともかく、東海岸まで突っ走って、欧州に渡るわよ?」
凪と澪は、楽しい海外旅行!
どちらも男の格好をしていて、澪も短めの髪だ。
東西で時差があるUSで汚れた車から降り、フロントがある建物へ入る。
安物のデイパックを背負い、トランクからスーツケースを取り出さない。
目立つと狙われるから……。
IDとクレジットカードがあれば、世は事もなし。
“警察に通報する前に発砲します!” の警告文を気にせず、不愛想なスタッフに話しかける。
この広さを見れば、銃が手放せないことも納得だ。
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