第823話 アンダーカバー

「つまり、室矢むろやさまは遊びたいと?」


 探るような、武羅小路むらこうじ家の当主。


 対する俺は、平然と答える。


「ええ! ウチはそういった女子が少なく、内部で揉め事になったら嫌ですから」


 応接セットでふんぞり返った男は、しばし考える。


「そう申されても……。確かに当流は女子校ばかりで選び放題に思えますが、ウチでなら食い漁ってもいいとされるのは、ねえ?」


 小馬鹿にしたような言い方だが、すぐに言い直す。


「んん……コホンッ! いえ、失礼しました! 仮にも千陣せんじん流のご当主への態度ではありませんな!」


「いえ、お気遣いなく! 武羅小路さまが納得できないのも、当然かと……。若輩者ゆえ、少しアピールする時間をいただいても?」


「……拝聴しましょう」


 向かいで座り直した男は、黙った。


 呼吸を整えた後で、説得する。


「これは経験談ですが、最近に買ったものがだったんですよ!」

「ほう?」


 脈絡のない話だが、相手の目の色が変わった。


 話を続ける。


「そちらでも、偽物に悩まされる事があるでしょう?」

「……何をおっしゃりたいので?」


「俺は自分の流派の中で肩身が狭く、憂さ晴らしがやりたいんですよ!」

「ふむ……」


 座ったまま腕を組んだ男は、熟考し始めた。


 やがて、顔を上げる。


「言いたいことは、分かりました! まあ、他ならぬ室矢さまの頼みです。遊び場の提供ぐらいは――」

「ついでに、目障りな筆頭巫女も調教しておきましょうか?」


 ストレートに尋ねれば、男は見るからに狼狽した。


 誰もいない空間を見回した後で、囁いてくる。


「発言にお気をつけください……。私はともかく、他に聞かれれば、あなたが暗殺されますよ?」


「そうですね。気をつけます」


 男は、雰囲気を変えた。


「室矢さまは、どのような女子がお好みで?」

「同い年の正妻がいましてね? 彼女にバレなければ……」


 考えをまとめた男が、確認してくる。


「では、そちらの奥方に悟られないよう、手配します。最初はバラバラの容姿で、5~6人ほど」


「楽しみです!」



 こういった経緯で、武羅小路家とのファーストコンタクトが終了。


 いきなりの申し出だったが、そのわりにスムーズ。


 そして――


 指定されたボックスに、紙のメモ。

 日時と場所だけ。


 暗記して、すぐに処分。



「じゃ、行ってくるから!」

「……せいぜい、気をつけてくださいね?」


 呆れかえった南乃みなみの詩央里しおりに見送られ、浮気現場へ向かう。



「お待ちしておりました! どうぞ……」


 スーツを着た男により、車の後部座席へ。


 外が見えない仕様だ。


『申し訳ありませんが、道中では多少の時間がかかります! そちらに室矢さまの相手をする女子のデータがありますから、ご覧ください』


「ありがとう」


 時間と方角から、施設を割り出させないためか……。



 ◇ ◇ ◇



 武羅小路家の当主は、桜技おうぎ流の女子校の1つにいた。


 マジックミラーになっている隣室を見たままで、独白する。


「この年なら、別におかしくもないか……」


 視線の先では、脱ぎ散らかされた制服やパステルカラーが彩り、その中心に室矢重遠しげとおの姿。

 スカートに頭を突っ込んでいる様子は、警戒するのも馬鹿らしい。


 自分たちの味方である女子グループも、なかなかに楽しんでいるようだ。

 全方位から1人の男子に絡みつき、盛り上がっている。


 千陣流の高家と聞いて、驚いたが――


「廃嫡されるわけだ……。撮影は?」

「抜かりなく」


 重遠の弱みを握った男は、ふうっと息を吐いた。


「腐っても、千陣流の当主だ……。いざとなれば、そちらの力を借りるか、身代わりにもできよう?」

「左様ですな」


 首肯した男は、腕を組んだまま、決断する。


「ならば、我らに逆らっている演舞巫女えんぶみこの調教場に案内しよう」

「そこで見極めますか」




 ――女子校にある調教場


 プハッと口を開いた女子は、拘束されたままで、卑屈にほほ笑んだ。


「ど、どうでしたか?」

「うん。最高だったよ……」


 鎖のジャラジャラした様子にも、重遠は平然と。


「彼女は?」

「……すぐに湯浴みと食事を与えます」


 痒みでもだえる女子にも、丁寧に奥まで掻いてやる。


 笑顔のままで倒れ込む女子に、武羅小路家の当主は方針を変えた。


 これだけのテクニシャン。

 あの筆頭巫女なぞ、一溜まりもあるまい。


 時間をかければ、こいつの情報が洩れる。

 その前に……。



「室矢さま? 以前に話しておられた筆頭巫女の件ですが……。会う機会を作るだけなら、私共わたくしどもで何とかしましょう。ただし――」

「調教のことには一切触れず、俺が個人的に口説けと?」


「ご理解くださり、恐縮です……。こちらも、サポートはいたしますので」



 まさか重遠が夕花梨ゆかりシリーズとの6人以上が日常だったとは、夢にも思わない。

 巨乳好きの原因になった柚衣ゆいより小さいな? と思いつつの相手で、わりと失礼でもあった。


 2周目にして、女子中学生に見える睦月むつきたちとの戯れが真価を発揮!


 重遠は、まだ純真な天沢あまさわ咲莉菜さりなと出会う。

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