第六章IF どっちを向いてもヤバい桜技流
第822話 まだあどけない貴重な咲莉菜
「はい……。では、一番面倒な
俺の宣言に、周りも憂鬱な顔だ。
今の桜技流は、腐っている。
主な学校で
トップの
上がってきた報告を見るだけで、視察しても事前に情報が洩れる。
「所詮は、現役の女子高生だしな?」
「ええ……。本当の意味での抜き打ち検査は、無理でしょう」
咲莉菜は筆頭巫女にして、警察の刀剣類保管局の局長としてのキャリア。
けれども、お飾りだ。
彼女の怖さは、もう少し先の夏休みで行われる御前演舞で披露。
1周目ではな?
「2周目にすれば、『完成品をこちらに用意しています』にできる」
「まあ、そうですが……」
歯切れの悪い詩央里に、説明する。
「俺たちには2つの選択肢がある! 今すぐ咲莉菜に1周目を入れて桜技流を
「あの……。その言い方だと、遅かれ早かれ滅ぶような……」
ここで、
「1周目でも、桜技流は死に
「問題は、咲莉菜に1周目を入れるタイミングだ……。桜技流の不正グループが幅を利かせている以上、あいつが暴走するか変なことを口走っては逆効果! 業を煮やして、不正の
俺の指摘に、その場が静まり返った。
腕を組んだ詩央里は、ストレートに尋ねる。
「若さま? 時間がないのでしょう? 前に『多少ダーティーな手段を使う』と
「咲莉菜に集中したい……。その2人は、カレナに任せる」
「承知したのじゃ! 下手に1周目を入れると逆効果は、そちらも同じだな? では、私の判断で動く。必要なら、マルグリットを使う」
思い出したから、口に出す。
「そういえば、桜技流の警察からの離脱も必要だったな? 欧州へ出発する前に片付けておかないと面倒だ……。ついでに、やっておくか!
「はい! 桜技流の不正を叩いた直後に、『
悪い顔になった俺は、首肯する。
「そうだ……。警察を担当している上級幹部(プロヴェータ)の
「
◇ ◇ ◇
「どうしたものやら……」
重役のような執務室で、天沢咲莉菜は息を吐いた。
桜技流で大々的に不正が行われているのは、こちらの耳にも届いた。
けれど、証拠はなく、疑わしい武羅小路家などを潰すのも難しい。
コンコンコン
「入るのでー!」
ノックの後で、局長警護係の1人。
大扉を閉め、応接用のソファーに身を沈めている咲莉菜へ耳打ち。
「……
少し離れた局長警護係が、報告する。
「ハッ! こちらが、その室矢家の当主です」
咲莉菜はタブレットで、ススッと指を動かす。
「室矢重遠……。高校生!? そなた、彼のことは?」
「い、いえ! 最近のデータ更新では見なかったはず……。申し訳ございません!」
片手を振った咲莉菜は、自分の側近に優しく言う。
「
「千陣流にコンタクトを取りますか? 理由はどうあれ、これは越権行為です」
局長警護係の提案に、咲莉菜は悩みに悩む。
けれど、首を横に振った。
「藪蛇になります! 『自分で武羅小路家に尋ねろ』と返されたら、それまで! しかし、千陣流の室矢家……。それも千陣家の元嫡男とは……」
老人になって、ようやく当主の座が回ってくる。
その千陣流で、異例中の異例。
「調べた限り、本人の霊力はゼロに等しく廃嫡されたとか……。そこまで警戒する必要は――」
「なればこそ、歪むのです! 抵抗できない者をいたぶるのは、典型的なパターン」
咲莉菜は言い返しながら、あの四大流派まで、と
しかし、すぐに指示を出す。
「東京の室矢家に連絡するので! あまり好きではないが、手段を選んでいる余裕はありません! 同じ女として、話し合いの場を設けます」
室矢重遠の正妻である南乃詩央里に訴え、彼女から止めさせる。
その意図を理解した局長警護係は、出ていった。
残された咲莉菜は、青白い顔で心細いまま。
「狙いは、武羅小路家が絡んでいる
要するに、千陣流の名家の当主が乱痴気騒ぎのため、桜技流の不正に一枚かむのだ。
咲莉菜は、さらに身動きが取れなくなった。
「もうっ!!」
苛立たしげに、前のローテーブルにあるティーセットを横に払う。
その一式は、ラグが敷かれた床にぶちまけられた。
高そうな陶器が割れ、中のお茶がこぼれてシミを作る。
「グスッ……。ウウ……」
ソファーに座ったまま、両手を顔に当てて泣く咲莉菜。
本来は、これが彼女の素顔だ。
いくら筆頭巫女で剣術が上手くても、意味はない。
ただでさえ、解決の目途が立たない不正に頭を悩ませているのに、四大流派で最も凶悪な千陣流まで加わったら……。
今の咲莉菜は、絶望している。
それはそれとして、重遠はオリチャーでRTA(リアル・タイムアタック)を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます