第814話 マギクスの魔法を作り出した悠月家

「そうですか……。先祖がドイツから退去したのは、そういった理由で……」


 悠月ゆづき五夜いつよは、感慨深げにつぶやいた。


 その隣に座っている明夜音あやねも、思うところがあるようだ。

 しきりに、自分の髪を触っている。


 今は、室矢むろやカレナが語り終わった場面。



 顔を上げた五夜は、カレナを見る。


「1つ、お尋ねしても?」

「構わん」


 呼吸をした五夜は、ストレートに尋ねる。


「悠月家の根源である強化魔法は、あなたが持っているのですか?」


 首肯したカレナが、説明する。


「そうだ! ユーヅェルマイヤー家を再興したいか? 釣り合う代償を払えば、戻すこともやぶさかではない」


「今は、日本の悠月家ですから……。欧州では『ユーヅェルマイヤー家の末裔』と名乗りますが、これ以上の力は必要ありません」


 うなずいたカレナは、それに同意する。


「そのほうが賢明だな! 思考を読むか予知する奴がいれば、待ち構えている網に飛び込むのと同じだ……。日本でも、魔法師マギクスは警戒されている」


「はい……。バレによる魔法の行使は、現代兵器に敵わず。だからこそ、現状に留まっています。警察と防衛軍の対立や政財界に食い込むことで」


 カレナが、補足する。


「駐屯地ごと、あるいは飛んでいる戦闘機やヘリを叩き落とせるとなれば、すぐに人権を奪われるのがオチじゃ!」


 俺のほうを見た五夜が、説明する。


「2人で進めてしまい、申し訳ありません……。先ほどのカレナが述べた昔話でのユーヅェルマイヤー辺境伯こそ、悠月家のルーツでございます。その強化魔法は、真牙しんが流を支えているマギクスが使うバレにも使われています。ゆえに、彼らは事象改変を行い、四大流派の1つです。……本来の力と比べれば、残りカスに等しいですが」


 言い終わった五夜は、悩ましげに息を吐いた。


「分かりました……。バレの開発を占めているから、悠月家は特別だと?」


「はい。かくいう私もマギテック研究所の所長として、他の者では務まらない立場です。……大変申し訳ございませんが、重遠さんに悠月家の秘密を伝える気はありません。これは我が家の武器であり、敵を寄せ付けない盾です! 予定通りに帰国したら明夜音さんとの初夜を行いますが、あなたは婿養子ではない」


 ジッと見つめる五夜に、頷いた。


「ええ、分かっています! 悠月家の一員として運命を共にしない以上、そちらの切り札を奪うわけにはいきません」


「ご理解いただき、ありがとうございます」


 対面で座ったまま、五夜は頭を下げた。


 顔を上げた彼女は、寂しそうに微笑んだ。


「まあ、カレナは強化魔法そのものを知っていますけど……。そろそろ、留学について話しませんか? 暫定的に、時期とメンバーを教えてください」


 全員が、俺に注目した。


「室矢家というか俺を四大流派に認めさせたら、すぐにでも! 真牙流のほうは任せても?」


「お任せください……。重遠さんは体を張って、ベルス女学校を守りました。その事実をアピールすれば、問題ないでしょう。残りは?」


 五夜の質問に、すぐ答える。


「主だった女子には1周目の記憶を入れるから……。そちらは俺たちで、何とかしますよ! 正直なところ、話すとマズい部分もありまして」


「承知しました」


 五夜の返事を聞きながら、南乃みなみの詩央里しおりのほうを向く。


「時間がない! 多少ダーティーな手段を使うから、『他の女子に手を出した』と説教しないでくれよ?」


 詩央里は、顔を背けたまま、認める。


「本命のヨーロッパ留学がありますからね……。日本に憂いを残したくないです。ただし、千陣せんじん流については、女漁りを止めてください! そんな理由で潰し合いになったら、困ります」


「千陣流で、その予定はないよ……。悠月さん! 留学先に心当たりは? なければ、自力で探しますが」


 五夜は考えながら、首肯した。


「そうですね……。向こうに、マギクスと似た魔法学院がありますから……。国などの条件は?」


「欧州であれば、構いません! よろしくお願いします」


 ジェスチャーで了承した五夜は、思案に耽る。


「先方に打診します……。進展がありましたら、随時ご連絡いたしますので」


 俺は、ふと思いつく。


「ああ、そうだ! どうせなら、東アジア連合のVIPも巻き込みましょう! 向こうへ行けば、東洋人の一括りですし」


 指をあごに当てた五夜が、確認する。


「傅(フゥー)さん……ですか? 彼女はともかく、その父親が納得するとは思えませんが?」


「そこは、明芳(ミンファン)の頑張り次第ですね? 彼女が説得できなくても、俺たちは困りません」


 ため息を吐いた五夜は、しぶしぶ同意する。


「現地で何かあれば、私たちも逆恨みされますが……。いいでしょう! 悠月家は距離を取らせてもらうため、こういった時にだけ口を出すのも筋違い。室矢家の当主は、あなたです……。進展がありましたら、ご連絡くださいますようお願いいたします」


「はい。会談が終わったら、すぐにでも」



 どうせ差別されるのなら、とことん面倒にしてやるさ!


 それに、明芳ミンファンのほうでも、何か情報があるだろう。

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