第810話 2周目だから2人に増えた
両手よりも大きなタコのような物体に、ドスッと刺さった。
『グワオオォエエエッ!』
逃げ出した魔術書の
その威力は本物で、壁に串刺しのタコが見る見るうちに溶けていく。
一連の動きを見ていた
「すごいわ、
3年主席のお言葉に、周りの女子たちも同意する。
「「「わーい!」」」
空いている片手を動かすだけで、リジェクト・ブレードを戻した。
これは俺の一部だから、消してから握り直すのも自由自在。
次に、周りで拍手をしている女子のグループを見る。
半脱ぎの競泳水着や下着姿、バスタオルだ。
「じゃ、お邪魔しま――」
「えー! もう行っちゃうの?」
その言い方は、別の意味に思えるから、やめろ!
「せっかくだし、歓迎するよ!」
「そうそう!」
「スク水のほうが、良かった?」
「ほら? 今日は可愛いのだよ?」
けれど、杏奈がパンパンと手を叩いた。
「みんな! 室矢くんは忙しいの! 私たちのために、危険な生物を駆除しているの! 邪魔したら、ダメよ?」
「「「ハーイ!」」」
それぞれにポーズをとっていた女子グループは、杏奈に従った。
妙に疲れたまま、出てきたばかりの部屋を見る。
“更衣室”
これだけでは、意味不明。
ベルス女学校で、女子だけ。
その中でも、3年エリアにいる。
要するに、女子校の高等部3年がいる場所……。
「やれやれ……」
「後は、どれぐらい?」
杏奈に尋ねられ、自分の感覚を研ぎ澄ます。
波紋が広がるよう、魔術的なサーチ。
ソナーのように戻ってきた情報で、決断する。
「そうですね……」
向き合っている杏奈に答えつつ、片手を振り上げ、重心移動で向きを変えた。
そのまま、
ガスッ! と、鈍い音。
奇襲を仕掛けようとしたタコは、銀のダガーを深々と食らい、脱力する。
「眷属のほうは、これで終わりです! あとは……脇宮先輩の部屋を見せてもらっても?」
もじもじした杏奈は、顔を赤くしたまま、
「ええ! ところで――」
「まだ本体……あのタコの親玉がいるんですよ? たぶん、脇宮先輩の部屋へ行けば、手掛かりを見つけられます」
心ここにあらずの杏奈は、俺の説明を聞いていない様子。
ともあれ、そこへ行って、リジェクト・ブレードで切り裂けば――
「先に行きます!」
霊力で身体強化。
床を凹ませながら、ロケットのように飛び上がる。
一瞬で視界が高くなり、杏奈の驚いた声を置き去りに……。
屋上を伝い、何度も放物線を描きつつ、女子寮の杏奈の部屋を目指した。
高速移動による風が、まるで壁のように感じる。
最後の跳躍で、その地面は爆発するが如く。
弾丸のように最短距離で飛び込みつつ、身体の前で交差したリジェクト・ブレードを外側へ振り抜き、壁を切り取った。
杏奈の部屋へ飛び込みつつ、逃げようとした魔術書へ1つを投げる。
さらに、もう1つも。
昔ながらのハードカバーをした魔術書には、複数の目。
眷属と同じように、タコ足が無数。
俺の姿に驚きつつも、車のようなスピードで――
見当違いの場所に突き刺さるはずだったリジェクト・ブレードに貫かれ、どうして? と言わんばかりに目を見張った。
続けて、もう一振りも。
風通しが良くなった杏奈の部屋で、壁に激突したまま、別れを告げる。
「残念だったな? それも、お前と似たような存在だ……」
俺が喋り出すまで、ほぼ一瞬。
内壁でずり落ちつつ、タコ足が生えた魔術書の最期を見届けた。
『ウヴォオオウゥアアッ!? ヴィレリ! ヴィレリ!』
最後のあがきで、魔術を使っているようだ。
けれど、お前の呪文は、すでに拒絶された後。
「完全解放をしなければ大丈夫と思ったか? なまじスコラ・デュ・ブレイブトールとの戦いを見ていただけに、先手を打てればと油断したな」
もはや原形を留めていない魔術書は、溶けるように消失した。
大きな破壊で、周りの女子が集まってくる。
魔力で身体強化をした脇宮杏奈も。
「終わった……」
――男子用のゲストハウス
押しかけてきた脇宮杏奈は、同じセリフを繰り返す。
「私は、あなたを殺しかけた……。あなたが許しても、私が自分を許せないの! だから……」
――お尻ペンペンして!
真剣な表情の杏奈は、ジッと俺を見ている。
「ね? お願いだから――」
「それは、認められません!」
別の女子が、すぐに反論した。
杏奈は、そちらを見る。
「
「いいえ! 四つん這いのバックは、私の領分です!」
彼女と一緒に来た天ヶ瀬
まさかとは思うが、パンストごとショーツを膝まで下ろして尻丸出しの1周目の出会いが入っていないか?
戦慄していたら、杏奈は腕を組みつつ、頷いた。
「そう……。なかなか見所があるわね? 私に、そこまでハッキリ言えるとは」
「ありがとうございます!」
誰か、ツッコミを入れろよ?
2周目だから、丸出しバックも2人に増えるの?
後ずさりを始めた俺は、瞬間移動のように後ろへ回り込んだ杏奈により、羽交い絞め。
その時に、麗が教える。
「あ! 重遠さんは、虐めるほうが好きだから。始めると、大変ですよ?」
「それは楽しみね? 手伝って」
杏奈と麗に連行され、彼女たちの罪悪感を解消する羽目に。
しばらく、2人の動き方は不自然だったそうな……。
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