第808話 ベル女の高等部2年はフリーダム♪

「ほわああぁあああああっ!?」


 面白い叫び声を上げた女子は、首まで赤くしたまま、くるりと背中を向けた。

 唖然とする面々に構わず、そのまま走り去る。


 ピンクがかったプラチナブロンドの長い髪と、青い目。


 中等部1年、天ヶ瀬あまがせうららか……。



「あ、ちょっと!? 室矢むろやくんと話さなくて、いいの?」


 引率してきたと思われる女子は、ため息を吐いた後で、こちらを向いた。


「ご、ごめんね? あの子は、君と話したいから、私が連れてきたんだけど……」


 申し訳なさそうな羽切はぎりあかりが、謝った。


「いえ、気にしていないので……。天ヶ瀬さんは、脇宮わきみや先輩に紹介されました。用事があるのなら、俺が泊まっているゲストハウスまで来るか、公式のルートで連絡してきますよ! 羽切先輩こそ、あまり悪く思わないでやってくださいね?」


「ああ、うん! 私も、別にいいんだけど……。室矢くん、あの子に手を出したの?」


 首を横に振った後で、答える。


「いえ。……少しは、信用してくださいよ? ゲストハウスには、脇宮先輩もいたのだから」


 ニヤ―ッとした灯が、いやらしい表情のまま、突っ込む。


「脇宮先輩も、一緒にしたんじゃないの~? あそこなら、どれだけ騒いでも外に音が漏れないし。やるねー、室矢くん♪」


 初めては、3Pでした。


 ホットスタートだな?


「それ、脇宮先輩に言ってもいいですか?」

「ああんっ! それは止めてー! 何でもするから!」


 じゃれている間に、目的地だ。


 この先輩は正気に戻っても、ノリがいいと言うか……。


「ところで、神子戸みこと先輩は?」


 暗い表情になった灯が、答える。


「ん……。室矢君のおかげで、回復したよ? ちょっと、待ってて!」


 灯は病院のカウンターへ歩いていき、話し出す。


 途中で俺のほうを向きながら、説明しているようだ。




 ――病院の個室


 神子戸たまきは、高機能のベッドで上体を起こしていた。

 短めだがオシャレな黒髪で、黒目を向けている。


 やっぱり、男装の麗人という雰囲気だ。


「僕が、高等部2年の主席である神子戸環だよ……。こんな形の自己紹介になって、申し訳ない。同時に、このベルス女学校を守ってくれたことに感謝するよ! 脇宮先輩まで戦えない状態とは……」


 深々と頭を下げた環に、慌てて告げる。


「俺がやりたいから、実行しました。顔を上げてください……」


「気を遣わせて、すまないね? 先に、用件を済ませておこう! ご覧の通り、僕は動けない。だから、主席補佐の紗織さおりと、そこにいる羽切さんに任せる。頼んだよ、2人とも?」


「任せて、タマちゃん!」

「じゃんけんに勝った私に、お任せあれ♪」


 不安になる人選だ……。


 しかし、環はコールドスリープという、前人未到の被験者だ。

 長居はしたくない。


「あとは、この2人に聞きます。お大事になさって――」

「僕の体には異常がなく、経過観察をしながらのリハビリ中! 今は精密検査だけど、来週には退院できるよ」


 俺が気に病まないよう、あえて教えたのか。


「良かったですね……」


「君が助けてくれたおかげさ! ありがとう……。君が目指している未来について、聞いたんだ。室矢家に加わるとは言わないけど、いずれ恩返しをする! 咲良さくらさんを通して、いつでも連絡してくれ」


 握手をして、環の病室を出た。




「それで、どちらが?」


 ニコニコしている雪野ゆきの紗織が、答える。


「特に、決めていないよ! どちらも暇だから、ツーマンセルでいいかな?」


「はあ……。そちらが大丈夫なら」


 俺が認めたら、紗織と羽切灯はハイタッチ。


「「やったー!」」


 灯が、いそいそとスマホを出した。


「今晩はパーティーということで! ゲストハウスに運び入れて、いい?」

「急ですね!?」


 俺のツッコミに、紗織が説明する。


「ウチは外出許可も、ろくに出ないし……。この機会を逃したら、今生の別れだよ? 室矢くんは、千陣せんじん流の当主だから」


「ああ、それで校長が青くなっていたのか……」


 わりと、マジだったんだね!


 そう思っていたら、紗織がジッと見ている。


「パーティーはいいですけど、参加者は?」


「2年の有志を集めて、全身のヌルヌル洗いをやろうか?」

「いや、どれだけ呼ぶ気です?」


 紗織は、両手の指を広げた。


 10人!?


「却下! 御二人だけで」


「室矢くんを2人占めだー!」

「どちらを先にする?」


 キャッキャッと騒ぐ2人に、ツッコミを入れる。


「あの……。俺だから、良いですけど。そういう冗談を言っていると、普通に襲われますよ?」


 不思議そうな紗織は、首をかしげた。


「え? 私、冗談を言ったかな?」


 いっぽう、灯はスマホを持ったまま、嘆息した。


「君だからってのも、あるけどさ? 抱きたいのなら、別にいいよ? というか、女子がこの手の話をするのは、誘っていることが多いから! 嫌な相手には言わないし、他に女子がいるからと密室で一緒にならない」


 状況にもよるけど。


 そう言った灯は、最終確認。


「私と紗織は、いいのね? 監視だから、最低でも1人は泊まるよ?」


「はい。まあ、話し相手がいたほうが賑やかですし」


 それを聞いた灯は、スマホの画面を触り出した。


 パーティーの手配をしているようだ。



 紗織はニコニコしながら、説明する。


「ちなみに、ここ、ローションを売っているよ! 大っぴらじゃなく、裏メニューで」


 そういうのが好きな男子を満足させるために、あるそうな……。


 何の学校だよ、ここは!

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