第805話 女子校ドキドキ♪フリーラン

 親の顔より見た、男子用のゲストハウス。

 そこに幽閉……もとい、滞在を許可された俺は、ラウンジのソファーに座ったまま思案する。


「今、どこにいるのやら……」


 独白した俺は、再び貸与されたスマホを手に取り、もう片方の手でトンッと触る。


 パッと画面が切り替わり、指の動きで、ベルス女学校の地下にある脱出経路がゲームのように表示された。


 昔は方眼紙に書いて、マッピングを忘れずにね! が合言葉だったそうな……。



 なぜ見ているのか? と言うと、俺がここの術式をまとめて破壊した際に、魔術書が逃げたから。


 高等部3年主席である脇宮わきみや杏奈あんな

 彼女の寮の部屋から、どこかへ行ったのだ。


 脱走したハムスターみたいだが、今では管理が行き届いていない地下へ逃げ込み、勢力を拡大しているとか……。


 境界線で陸上防衛軍と対峙した直後で、また派手に壊したら、さすがにマズい。

 

 そういうわけで、俺と咲良さくらマルグリットの2人が滅ぼしておく。

 混乱させないよう、ベル女の生徒たちに詳細を教えず。



 周りに座っている女子たちに、告げる。


「今の俺は、最高権限のスマホを持っている! まだ危険な生物……というか物体が巣くっているから、そいつを退治するためだ」


 代表して、3年主席の杏奈が答える。


室矢むろやくんに謝りたいけど……。まだ危険があるのなら、是非もないわ! どれぐらい、動くつもりかしら?」


「俺の武装なら、直接攻撃で滅ぼせるはず……。逆に言えば、周囲に被害を出さないためには、斬るか刺すしかない! シャワーだろうが風呂だろうが寮の自室だろうが、とにかく虱潰しらみつぶしで本体ごと潰す。現状が不明である以上、もう一刻の猶予もない。あと、敵の詳細を聞かれても、全く分からん」


 出現させた銀のダガーをもてあそべば、周囲の視線が集まった。


 このリジェクト・ブレードの威力は、かなりの人数が目撃している。



 うなずいた杏奈が、宣言する。


「聞いたわね? まだ本調子じゃない人もいるけど、学年主席と補佐の誰かが常にコンビを組むように! 他の子たちを動揺させないために、室矢くんの歓迎会は予定通り」


 他の主席と補佐から、肯定の返事。


 ひとまず、同じ1年で主席補佐の新井あらい実果みかが残った。


「え、えーと……。よ、よろしくお願いします!」


「よろしく……。いつ戦闘になってもおかしくないから、お互いに名前の呼び捨てでも? 敬語のせいで遅れるのは、嫌だ」


「は、はいっ! えっと……武装はどうしますか? 敷地内であれば、護身用の拳銃ぐらいは――」

「いや、不要だ! 鉛玉は役に立たないし、誤射が怖い……。実果は俺と一緒にいて、問題になった場合に証言してくれれば、それでいい」




 ――1年エリアの食堂


 今回は、俺をねぎらうのが目的。

 それゆえ、学年単位で集まり、お互いに一言を述べるぐらい。


 学年主席の時翼ときつばさ月乃つきのがリードしつつ、あっさりと立食パーティーの開始。


 全員が並べば、一言と握手だけでも数時間コースだ。

 貸与されているスマホで全生徒の個人情報にアクセス可能として、省略。


 裏の目的がある以上、のんびりとしていられない。


 主席補佐の実果は、俺の監視もやっているから、月乃の手伝いをせず。

 ずっと、俺の傍にいる。



 並んでいる料理は一口サイズの軽食だが、高そうな物ばかり。

 校長室での説明によれば、りょう愛澄あすみの自腹だ。


 月乃は司会に任せて、咲良マルグリットと熱心に話している。

 周りの女子は距離を置いているが、険悪な雰囲気にあらず。


 ボーイッシュな実果は、おずおずと話しかけてくる。


「あの……。し、重遠しげとお? 秘密裏にトラブルを解決するため、理由を作ったんだけど――」

 ピンポンパン ポーン♪


『ベル女の皆様にお知らせします! 当校に滞在している室矢くんの希望で、1つの趣向を凝らしました。以後は、各自の端末で参照するように! 以上』


 ピンポンパン ポーン♪


 俺のポケットで、ブゥウウンと振動する音。

 それぞれが自分の端末を取り出し、画面に触っている。


 俺もならい、新着をダブルタップ。


 何々……。



【ドキドキ♪フリーラン】


 室矢くんは、いつ来るかな?


 今の彼は、一般施設を自由に行き来できます。

 比喩ではなく、文字通りの意味で。


 施錠している寮の部屋にも入れるため、ご注意ください!


 なお、事故防止として、以下の項目を実行します。


・室矢くんの現在位置は、貸与したスマホで常に表示

・高等部の学年主席または補佐が1人、彼の行動を監視



 周りの女子は、何とも言えない視線。


 俺の傍にいる実果が、衝撃的な一言を告げてくる。


「えっと……。この特別事項に基づき、私……少なくとも、翌朝まで一緒にいるから」


 もじもじする彼女は、赤くなった顔で懇願する。


「て、手を出さないにしても、そういう問題じゃないんで……。け、結婚してくれとは、言いませんけど!」



 …………


 …………



 どうやら、フリーで動き回るから、俺にずっと張りつくようだ。

 そうしないと、スマホは置いていけるし、身の潔白が証明できないけどさ。


 え?

 この新キャラというか、実果を含めて、一緒に過ごすの?

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